小橋 昭彦 2020年5月28日

数学、あるいは物理について折に触れて取りあげている。

和算の魅力、無次元数や素数あるいは無限のこと。読み返すと、短い文章の中で簡潔に、しかし分かりやすく説明しようと毎回苦心している。

 

計算ずくのはずが直感からは驚くような結果が見えてくるのが、ぼくにとって数学のおもしろさだ。

たとえば等比級数。和算を取りあげたときに、豊臣秀吉を困らせた曾呂利新左衛門の逸話を紹介した。江戸時代の算術書「塵劫記」にも、ケシ粒を今日は1粒、明日は2粒、明後日は4粒と日に日に倍にしていくと120日目にいくらになるかという問題がある。

答えは6646溝1399穣うんぬんだという。「溝(コウ)」なんて単位まず使わないが、兆の上、「ケイ、ガイ、シ、ジョウ、コウ」と続く、そのコウである。

 

現代風に表記すれば「溝」は10の32乗。仮にケシ粒をまっすぐ並べていくと、100日目には宇宙の果てに達してしまう。120日目まですべて収めようと思えば、あと100万個は宇宙がいる計算だ。

ちなみに100日目に宇宙の果てと言っても、月を超えるのは42日目、アンドロメダ銀河を超えるのは88日目だから、各日分を分けて階段状に並べた等比数列としてみれば、はじめのうちは案外ゆったりである。

 

別のたとえに変えてみよう。

 

いま、手元にある紙を1秒に1回ずつ二つ折りにしていく。1秒後に二つ折り、2秒後にさらに二つ折りして四つ折りに、3秒後に八つ折にという具合である。

紙の厚みを0.1ミリとすれば、12秒後に膝丈となり、自分の身長に並ぶのが14秒後、東京スカイツリーを超えるのが26秒後になる。1キロに30秒近くかかるなら月に届くまでコーヒーでも飲む時間があるかと思うとそんなことはない。

42秒後だ。そしてこの時点で光速を超え、アンドロメダ銀河には1分半しないうちに届いてしまう。

 

新型コロナウイルス感染症が拡大し、この間、ぼくたちは新規感染者数など日々の数字を知らされてきた。

一方で等比級数的(指数関数的)に増えていく状態をグラフで確かめていた人も多かったのではないか。まさにそれが、恐れられていたことだった。

 

さいわい現時点でぼくたちは、等比数列の階段から降りつつある。

緊急事態宣言が解除され、徐々に「新しい日常」に戻っていく。しかし、はじめはとるにたらないと思えたものが、気づけば手に負えない状態になる、この階段のことをぼくたちは心に刻み続けていくことだろう。

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1 thought on “等比数列の階段

  1. 塵劫記の当該数字が出てくるページは『塵劫記』で確認できます。

    新型コロナウイルス感染症における統計的な分析については、Financial Timesの『Coronavirus tracked』などが話題になっていました。

    ちなみに月までの距離は384,400km、ミリにすれば3.84×10の11乗です。ケシ粒の大きさを0.2㎜として、この5倍、1.9×10の12乗個(1.9兆個)並ぶ計算です(合ってますよね?)。同様にアンドロメダ銀河までの距離は250万光年、宇宙の果ては137億光年とし、1光年は10兆キロメートルとして計算しています。アンドロメダまでは1.25×10の26乗個、宇宙の果てまでは6.5×10の29乗個並ぶ計算となりました。

    こう考えると、6646×10の32乗という数の途方もないこと。なお、日々のケシ粒の数はExcelに助けてもらいました(^^

    文中、同じ比率をかけて増えていく(例の場合だと2倍、2倍)等比数列と、その数列を足した等比級数、そして等比級数という言い方もされますが指数関数的という言い方の方が一般的かと、高校時代に微分積分でつまずいた者としてはヒヤヒヤの使い分けです。

    等比級数が歴史のあちらこちらに顔を出しているという話、「スケールフリー(2004.11.4)」で紹介しています。

    その他、過去に数学関係を取りあげたコラムは、「無限の無限(2002.6.24)」「和算(2002.11.18)」「無次元数(2003.10.23)」「1から始まる(2004.05.20)」「素数にひかれて(2004.6.17)」などです。どうぞお楽しみください。

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