次元のない数というと穏やかじゃないけれど、つまりは単位のない数と考えるといい。たとえば、同じ10キロ痩せたといっても、関取の場合とぼくでは事情が違う。そこで、もとの体重を仮に100として現在と比較する。体重200キロの力士が190になったら現在は95だが、ぼくなら92になる。こうしてキロという単位をはずせば、比較がしやすい。
比率をとるのは、無次元化する代表的な方法だけれど、流体力学を専門にしている方ならよくご存知のように、無次元数にはその他さまざまなものがあり、現在およそ60個弱が知られている。有名なのはレイノルズ数だろうか。流体の速度をそれが流れる管の直径で掛けて、粘りをあらわす係数で割る。これが大きいほど、流体は勝手にあちこちながれる、つまりは乱流を生む。無次元数にはほかにもアルキメデス数、オイラー数、フーリエ数などあり、さながら著名な数学者、物理学者のリストを眺めているよう。
そうしたなかにストローハル数として知られる無次元数がある。周波数に長さを掛けて速度で割る。物体の後方に生じる流れを表すもので、たとえば橋脚の下流側に渦が出来る、その様子をストローハル数で説明できる。魚たちは泳ぐとき、ストローハル数が0.2から0.3という狭い範囲で最適になるようにしている。オクスフォード大学の研究チームの調査によると、鳥でも虫でもムササビでも、飛ぶときにはストローハル数を0.2から0.4というやはり狭い範囲におさめているのだとか。こうしたことから、科学者たちは、たとえ他の星で飛んだり泳いだりする生物が見つかっても、このストローハル数の範囲内にあるだろうと予測している。
こうしてぼくたちは単位を離れ無次元数で世界を見るとき、メダカからクジラ、ハチからツルに至るまで、すべては同じ原理のもとにあることを知る。泳ぎ、飛ぶものたちの後ろにストローハル数を描き、ぼくは心の次元が、解き放たれる思いを抱く。
動物のストローハル数についての論文は、「A.NIMAL B.EHAVIOUR R.ESEARCH G.ROUP」によるものでNature425 707からに「Animal motion: Strouhal on」として発表されています。解説記事「One number explains animal flight」もどうぞ。「CFDで見る生物流れ」も参考にしてください。流体力学関係では「日本流体力学会」(及び「(旧)日本数値流体力学会」)「日本機械学会流体工学部門」などをご参照ください。無次元数については、「無次元数の世界へようこそ」にまとまっています。
補足的に書いておくなら、無次元化することのメリットは、まさに単位にとらわれなくていいことにあります。たとえば大きな航空機の起こす気流の乱れを知りたいとき、無次元数でみていくなら、ミニチュアの実験室テストで代用できることになります。
ストローハル数は、周波数×長さ÷速度ですから、
(1/sec)×m÷(m/sec)
ですね。掛けて割ってで確かに単位は消えます。
えっ、小橋さんて体重125キロもあるのですか?
私の計算間違いかな?
すみません、ぼくの計算間違いです。もとの体重を100とすれば、いまは85ですね。訂正します。いやあ、いらぬ疑念を振りまいてしまいました。
無次元量という言葉にピンと来たと同時に、懐かしく思い出されることがあります。
大学の卒業研究で、物理量をコンピュータで計算させるシステムの研究をしていました。
物理量というのは、数字+単位 のことです。
ところが、コラムにあるとおり、流体等の世界ではいろんな無次元量が存在しているため、物理量どおしの演算時に、単位が無次元量になると、いったい何をあらわす数字なのか、わからなくなるんです。
ちなみに、角度も無次元量の一種と考えられます。
で、研究では、その物理量に(物理量オブジェクト)に自分自身がどういう計算をされて、生まれてきたのかを憶えさせておいてその履歴から、推論するという方法を考えていたのです。
結局、100パーセントの物は作れませんでしたが、無次元量と闘っていた日々が思い出されました(^^)
今回で999号ですよね。おめでとうございます。
でも、以前どっかのインタビューで「とりあえず1000号まではがんばります。」みたいな事を仰っていたのでビビッてます。どうか続けてくださいね。
小橋さんの文章って心があらわれます。きっとそう思っているのは私だけではないはず。
気が付かなかったぁ。本当ですね。
「999」って書いてある。すごいなぁ。
私がインターネットをはじめてから、どのホームページを見て良いかわからなかったとき、「雑学」からネットサーフィンをしていたころが懐かしい(^^;)。
今ネットを続けているのも「雑学」のお・か・げ。
今のうちに「おめでとうございます」「ありがとう」です。
無次元数と関係ない話でごめんなさい。
んで、もっともっとがんばって、と無責任ですけど応援していますっ!
ありがとうございます。よくお気づきいただけましたね。千号は何のテーマにしようか、緊張気味です。
確かに、まずは目指していたところ達成ですが、やめて次といえるほどの自分をまだ持っていません。お眼汚しかもしれませんが、まだしばし、続けてまいります。これからも、よろしくお願いいたします。
昆虫の飛しょうといえば理論的には飛べないハエの話を思い出します。体重、筋肉量、羽の面積から飛翔できないはずのハエが飛んでいる。自分が飛べないのを知らないのではないか、というものでした。今年飛しょうをコンピュータで解析したところ、羽の振り上げ時に渦流を作り振り下ろしの揚力を増加させていることがわかったそうです。
ありがとう。素晴らしい、よく分かりました。