小橋 昭彦 2020年5月20日

屋久島の縄文杉のことを考える。

さすがに7000年との説は見直されているが、少なくとも2170年以上前のものとされる。

2170年という樹齢は、放射性炭素の半減期を用いた方法で調べられたもの。植物は放射性炭素を含んだ炭酸ガスを光合成で利用して自分の身体を作る。

樹木の中心部は、細胞としては死んでいる。われわれ動物のように細胞が入れ替わらない。形成された時点の大気と同じ割合の放射性炭素を内に抱えているわけだ。

もっとも放射性炭素の割合は時代によって違うから、測定の正しさは、別の年輪と比べた年代と照合して確認する。

テクノロジーが進歩しても、樹齢を知るに年輪に勝るものは無い。

 

海洋研究開発機構が今年3月に発表したサケの回遊ルートは、サケの背骨を輪切りにして調べたそうだ。

サケの脊椎骨は、年輪のように刻まれる。骨が形成されるときに、周囲の海域の環境が反映される。

窒素の同位体比は、海域によって値が異なる。そこで、輪切りにした脊椎の内側の若い頃から、成長した外側の部分までの同位体比を調べた。するとサケが日本近海からベーリング海に北上、最後の段階ではベーリング海東部の大陸棚に到達していることが確かめられた。

 

サケの脊椎骨が海水の状態を教えてくれるように、樹木の年輪は、その時代の大気の状態を教えてくれる。

鹿児島大学の研究チームによると、屋久杉には鉛やカドミウムといった重金属が産業革命以降刻み込まれており、とくにここ数十年のモータリゼーションの影響が明らかだという。

 

このところ都市封鎖の影響で、人類が排出する汚染物質が減っている。

スイス企業が発表したところでは、世界の各都市で大気汚染が改善しており、インドのデリーや韓国のソウルのように、昨年比でPM2.5が半減以上したところもある。

この一年の様子は、屋久杉にどのように刻まれるだろう。千年後の人類になったつもりで、想像している。

1 thought on “刻まれた環境

  1. 海洋研究開発機構の研究は、「サケの骨に刻まれた大回遊の履歴」として発表されています。

    屋久杉の研究については、鹿児島大学の「屋久島と大気汚染」の解説がわかりやすいです。

    ロックダウンによる大気汚染の状態については、IQAirの「COVID-19 Impact On Air Quality In 10 Major Cities 」をどうぞ。日本語ではCNNの報道「世界の都市の大気汚染、ロックダウンで異例の改善」が手ごろ。

    なお、生体に環境が刻まれるという点では、耳垢や核実験の影響に触れた「齢を刻む」も参照ください。

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