すべては調節されている。タイトルに使った言葉は、生態系について紹介した書籍『セレンゲティ・ルール』の見出しからとった。
この書籍の発見は二つある。
ひとつは見出しに表れている通り、生命のバランスは血糖値のような個体レベルから国立公園の動物の生息数に至るまで、調整のうえで成り立っていると一貫した目線でとらえたこと。そしてもう一つは、二重否定論理に焦点を当てたことだ。
二重否定論理とはどういうものか。
20世紀前半、ミシガン州の島にオオカミが再導入された。その島では、やがてモミの木が生い茂った。単純な因果関係の考え方では、オオカミの糞などの栄養源がモミの木の成長を促したととらえる。
実際はそうではない。オオカミが、モミの木を大量消費するヘラジカを狩ることで、モミの木が成長できるようになったわけだ。
あるものを抑制していた原因を、別のものによって抑制する。これが二重否定論理。病原そのものではなく抑制要因に作用する薬の開発など、ミクロのレベルでも応用される仕組みだ。
何かを加えることだけが作用を生み出す行為ではない。何かを取り除くこと、抑制することが作用を生み出すことも多い。
モミの木の成長に、その木に近寄ってさえいないオオカミの影響があるように、世界は多くの連鎖で成り立っている。そんな目を、失わないでいたい。
二重否定の考えかたについては以前のコラム『抑制するもの』にも書きましたので、ぜひ参考にしてください。
コラムで紹介した書籍はこちら『セレンゲティ・ルール』です。
小橋 昭彦様
恐らく10年以上前からずっとコラムを読ませていただいています。
ありがとうございます。
二重否定の考え方、大変参考になりました。
日常生活の中で、頭では理解できるもののなかなか実行にうつす発想がもてないことのひとつだと思います。たとえばその島にモミの木を増やすプロジェクトを立てるとしたら、普通に発想できるのは単純にモミの木をたくさん植えることですよね。それも一つの方法ですが、「オオカミを増やしてみてはどうだろう?」という発想が持てることが視野の広さ、発想力の豊かさにつながっていくということを、このコラムから学びました。
長い間、ありがとうございます! そしてコメントをいただき、嬉しいです。
ぼくも二重否定のような、ある物事に対するときに違う観点で見直す思考法が好きなんです。そもそもこのコラムがそうした方向を心がけていると言えるかもしれません。