人類より野生のゴリラの方が活動的だなんてなぜ勘違いしていたのだろう。キング・コングのような映画からの刷り込みだろうか。
人類学者のポンツァー氏によると、ゴリラより活動的と思われるチンパンジーでさえ、1日にせいぜい3キロも歩けばいい方で、1日の消費エネルギーはヒトより1、2割少ない。動物園での様子から察するに、なるほど木の実を食べてはグルーミングに昼寝というのが標準的な一日である気がする。
そもそもヒトの消費エネルギーが並外れているのだ。運動するからではない。進化上の特色として。
一日を狩猟で過ごすハッザ族の男性で燃焼カロリーは2,600キロカロリー。実はこれ、先進国に暮らしている場合と同水準で、つまり、運動量と燃焼カロリーには相関が無い。痩せることを目的にエクササイズしている人にとっては悪いニュースだ。
もっとも運動が役にたたないということでは無く、これはオーストラリアの成人を対象にした調査だけれど、テレビを1時間見て過ごすと平均余命は22分縮まるのだそうだから、運動は健康に欠かせない。
こういうことだ。ぼくたちは、運動せざるを得ないようにできている。狩猟生活を長く送ってきた人類は、その生活に適したエネルギー構造に進化してきたのだ。
獲物がとれないこともある。だから飢餓に耐えられるよう、体脂肪率が高めだ。成人男性で15~20%。チンパンジーは運動量が少ないわりには10%というのに。
エネルギー多消費型のヒトは、火を使う調理法で効率的なカロリー摂取を可能にしたり、他者と分け合うことで飢餓状況を乗り越える社会性を備えてもきた。
明るい季節になってきた。新しい時代、ヒトらしく、調理し、他者と分かち合い、身体を動かそう。
今回はニューヨーク市立大学ハンター校Herman Pontzer氏(『Human Evolution&Energetics Lab』)の知見を主としています。日本語での解説は日経サイエンス誌の記事「運動のパラドックス なぜやせられないのか」「運動しなければならない進化上の理由」をご参照ください。