思わずひざを打つアイデアがあって、心に残っている作品がある。たとえばポール・アンダースンの『脳波』。ある日を境に地球上の生命の知能が飛躍的に増大するという設定。ぼくたちの地球は、銀河系の端をおよそ2億5000万年かけて一周している。これまで地球が公転していた銀河の方向は、知能を抑制する作用のある空間だったのだと。そこから抜けて「平常」に戻ったのが、知能増大の要因とする。
読んだのは高校に入ったころだったろうか。『アルジャーノンに花束を』のように何らかの作用を加えるのではなく、今までかかっていた作用がはずれたという発想。日常ととらえていた日々がじつは異状だったという認識の変換が新鮮で、ため息をつきながら天の川、銀河の中心を眺めたものだった。
友人からもも上げの運動科学的解説を聞き、そんな日のことを思い出した。ももを高く上げる、昔よくやった運動だ。あの運動をすると速く走れる気になるけれど、もも上げで鍛えられる太ももの前の大腿四頭筋は、実はブレーキ筋。前に向かって進むとき、下方に落ちる重量と運動量に抗するためにある。筋肉というとつい力を出すことを連想するが、そう、抑制するはたらきもあるのだ。
筋肉だけではない。人間の免疫系でも、キラーT細胞のように外敵に対抗する力だけではなく、免疫系を抑制しているサプレッサーT細胞なんてのがある。この細胞を通常のT細胞から見分ける方法を発見した先駆者が京都大学の坂口志文教授。その後、免疫力を高めるために、このサプレッサーT細胞のはたらきを抑える研究がなされている。抑制するものをはずすことで力を出す。なんだか『脳波』的だ。
何かの道を開こうとするとき、ぼくたちはつい力によって開こうと考える。視点を変えて、抑制しているものをはずす、そんなじっくりした行きかたもあるのだ。思えば、10代の半ばでそんな考え方に出会えたのはしあわせだった。
『脳波』残念ながら、絶版のようです。筋肉の働きについては、「ジンブレイド」がわかりやすいです。免疫については「T細胞の話」をご参照のほど。
プラスのアイデアはいろいろ出てきますが,
マイナスのアイデアはなかなか出てこないですね.
「あたりまえ」の世界から脱出しないと.
抑制をはずす。なんか知恵の輪(懐かしい…)がスッと外れた時の感覚を想像しました。ココロの粒子が飛散するような開放感。
その抑制が何かに気づくことが「逆転の発想」ってことなのですね、きっと。
「抑制しているものをはずす」とは、なんだか新鮮に感じました。『フル回転&スピード』ばかりを意識して疲れてきた感じがありまして「スピードを上げるばかりじゃ能がない」と亀さんスピードに落とし気味にしていたら、いよいよ「これはいかん!」と考えていた年末年始。
『ああ!そうだよ!抑制しているものをはずして身軽にしてから速度を上げないと疲れちゃうやん!』という気づきの言葉でした。
「じゃ、どの抑制をはずすのが効果的かな?」しばし亀さんを続けて自問自答してみよう。
気づきをありがとう!
抑制をはずす、、、。
最近ようやく抑制することを覚えてきたところだったのですが(笑)。
抑制することで楽になることもあるのだなと社会人生活13年目で感じ始めているところです。してみると私にとっての「抑制」とは実は「抑制をはずす」ことだったのかもしれませんね。
「今日の憧太朗」を読んでいて、弟が小さかった頃のことを思い出しました。小さい子はおにいちゃん、おねえちゃんが何故か大好きなんですよね。当時はなにかとまとわりついてくる弟には「うるさいなあ」くらいにしか思いませんでしたが。
握手してあげるだけできゃっきゃっと大喜び。興奮しすぎて夜寝なくなって母親が大弱りしてました。懐かしい風景です。
「押してもだめなら引いてみな」ということと同じですか?言葉としてありきたりで実感を伴っていないから、知っていてもその効果がない。言葉だけを聞いてもだめで、自分の経験に照らし合わせて実感として取り入れてはじめて意味のある言葉になる、ということでしょうか。
いわゆる“火事場の馬鹿力”もそうですよね。自分の筋肉を痛めないために通常は無意識の抑制がかかっているものがはずれてしまうという。また「自分の耳をふさいで大声を出すとより大声が出せる」なんてこともありますね。(これはちょっと意味が違ったかな)
さいきさん、そうですね、「押してもだめなら引いてみな」と似ているのですが、ぼくにとってという話でいけば、ちょっとニュアンスが違う気もします。
押すも引くも視点は同じレベルですね。同じ場所にいて押すか引くかという。ぼくが実感したのは、たとえば自分の能力を伸ばすのに、押したり引いたりしている、でもすこし視点を浮かせば、じつは押すとか引くとか関係ない、まったく別のレベルの何かが鍵なのかもしれないという発見でした。コラムの文章からは、伝わりにくかったと思います。
小橋さん、貴方は凄い。高校時代にそういう文献にであっている。私は、今少年野球のコーチをしていますが、抑制する筋肉という意識が全くありませんでした。もう一度勉強し直します。
ここでいう「抑制」はネガティブ・フィードバック、ともちょっと違うのかな。
コンクリートの下のたんぽぽみたいに、抑制する力が外から加わると、上に成長するのをやめてその代わりに茎を太くするような植物ホルモンが分泌されるのだと、高校生のとき習った覚えがあります。
盆栽ははさみを入れるなどしてちょくちょくいじられることで、この植物ホルモンが分泌され、小さく保っていられるんだとか。
そういうのを思い出しました。