その昔、クジラには耳があった。水中で過ごすようになって不要になり、耳垢をかきだす機構が失われ、クジラの耳には年々耳垢がたまっていくようになった。
クジラは回遊するので、その耳垢は1年ごとに縞模様ができる。栄養豊富な夏は脂肪分が多く明るい色に、冬は暗い色に。
クジラの耳垢はときに数十センチになる。耳垢栓と呼ばれ、世界の博物館に保存されている。縞模様を数えればクジラの年齢が推定できる。
このほど米国の研究者らが明らかにしたのは、この耳垢栓をもとにした、クジラのストレス度の変遷。耳垢栓に含まれる、ストレスを感じると分泌されるコルチゾールなどのホルモン濃度を調べたのだ。
世界から提供された6頭の耳垢栓を調べることで、ここ150年程を追跡した。
調査結果によると、捕鯨がピークを迎えた1960年代にストレスレベルがピークになっており、1970年代になって商業捕鯨が制限されると、ストレス度も減ったという。
一方で、捕獲量が減っていた第二次世界大戦中にはむしろストレスホルモンは増えていた。潜水艦や航空機、爆弾といった環境がクジラに影響していたらしい。
さらに研究者らは、その後特に1990年代から2010年代にかけてストレス度が増えつつあると報告している。そしてそれは地球温暖化による海洋環境の変化が要因ではないかと推測している。
捕鯨文化の国に暮らす身としては、少々物語的に解釈しすぎじゃないかと思えなくもない。研究チームは、追加で数十個の耳垢栓を手に入れており、追跡調査をする予定だとか。
地球温暖化を映すクジラの耳垢。ぼくたち生き物は、この地球の変化を敏感に受け取りつつ生きているのだと、あらためて知らされたことだった。
研究を率いたのはベイラー大学の, Stephen J. Trumble教授、『Baylor Professors Use Whale Earwax to Reconstruct Whale Stress Levels Spanning More Than a Century』で詳細が紹介されています。日本語では『約150年間のクジラのストレス度、耳垢で解明』の記事が伝えています。
以前のコラム『齢を刻む』も参考にしてください。