小橋 昭彦 2006年10月20日

 クジラの年齢は耳垢で知ることができる。何年か前に書いたけれど、覚えていらっしゃるだろうか。暖かい海と寒い海を回遊するため、1年ごとに耳垢に明暗の成長層ができるのだ。樹木と同じく、動物にも夏と冬でこうした成長層ができ、年齢推定に利用されている。ウシなら角、アワビなら貝殻、クマなら歯、魚ならうろこや耳石。
 では、組織の年齢はどうすればわかるだろう。たとえばあなたの腕は何歳か。腸は。脳は。動物実験なら細胞に標識をつけて追跡するそうだが、有害なので人間には利用できない。でも、ひとつ方法がある。北朝鮮が核実験を行ったというニュースを耳にして、そんな話を思い出し、自分の身体を(その細胞を)じっと見つめた。
 おおむね25歳以上の人なら、たいてい細胞の中に炭素14が含まれている。放射性といって、一定の速度で自然に分解する特性があるため、遺物の年代測定などで利用されている物質だ。それがぼくたちに含まれている理由が、核実験なのだ。広島で第1回原水爆禁止大会が開かれた1955年当時、大気圏内での核実験が盛んに行われていた。大量の炭素14が放出されて地球全体に拡散し、植物に取り込まれ、その植物を動物が食べ、そうした動植物を人間が食べる。こうして人間の細胞に炭素14が取り込まれた。
 人体組織各部の炭素14を分析し、大気中の炭素14と比較する。すると、組織の年齢が分かる。たとえば30代半ばの人でも、その腸や骨格筋の細胞は10代半ばと若い。ただ、脳の皮質部は生まれたときに形成されたまま変わらなかったという。
 この手法で年齢を求められるのは、おおむね1980年代までに生まれた人。それ以降の世代で細胞内の炭素14が減っているのは、もちろん喜ぶべきこと。細胞年齢は測りづらくなっても、ずっとそうあってほしいと、もう若いといえない「脳年齢」の頭で、強く願っている。

8 thoughts on “齢を刻む

  1. とりあげた科学者らの論文は「Forensics: Age written in teeth by nuclear tests」、です。入手は「PDFファイル」で。「Research links bombs to brain cells」も参照。
    歯のエナメル質の炭素14から年齢測定することも行われており、災害の犠牲者の身元確認に役立てられています。「New tooth enamel dating technique could help identify disaster victims」参照。
    年度ごとの原水爆実験の回数は、「判明している世界各地の核実験1945年?1998年」などで。

  2. いつも楽しく読ませていただいています。
    ありがとう。
    久しぶりでなくもっとどんどん記事を載せてください。
    知りたいこと沢山、頭の体操をさせてください。

  3. ありがとうございます。
    少なくとも月1度は更新していきますね。楽しみにしていただいていて、ほんとに嬉しいです。

  4.  炭素14と核実験の話。「へー、そんなことだったのか」と参考になりました。
     ただ
     笑われるのを覚悟で書きますが「遺物の年代測定に利用されている」というのはどういうことでしょうか。
     遺物が生成された頃は核実験などなかったのですが…。

  5. 宇宙線由来の炭素14があるんです。下記が詳しいです。
    ・放射性炭素(炭素14)で年代を測る
    http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/2000dm2k/japanese/02/02-12.html
    この場合、いつの時代も規則的にできるので、生命体が死んだ時点をスタート地点としてしか測れないことになります。
    核実験由来の場合は、イレギュラーな値なので、その時点からの大気中と生命体内のものを比較することができるっていうことのようです。

  6. 復活 おめでとう御座います。
    今後とも 楽しみにしていきたいと思います。

  7. いつも楽しく拝見しています。
    というか、久しぶりに更新していてうれしかったです。
    たまに、こちらで拾ったネタを
    僕のブログでも使わせてもらっていいですか?
    それぞれの組織の年齢がわかるってことは、
    逆の発想でなにか組織別若返りの秘策につながるかもしれませんね。

  8. みつさん、いつもありがとうございます。
    文章はともかく、紹介してるネタ(研究成果や発見など)はぼくのものではない(当然ですが)ので、ぼくが許可するのも変かもしれません。
    ともあれ、よろしければトラックバックしておいていただければ、ぼくも楽しめそう。
    ぼく自身、ひさびさに書いていて楽しかったです。なんだか、やっぱりここがルーツかなあ。

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