15年前のコラムで、心の痛みを感じたとき、脳は身体的な苦痛と同じ反応をみせることを書いた。
仏教用語でいえば「身心一如」、あらためてこの言葉を思い出している。
身心一如的な考え方、医学面では「全人的医療」が近い。また心理学では「身体化認知」と呼ばれる。
ホットミルクを飲めば心もほっとするし、柔らかいクッションに腰かければ考え方も柔軟になる。快適な香りをかいでいたら優しい気持ちになるし、トロフィーは重い方が社会的に評価されているように感じる。
ちなみに、身心は「シンジン」で、道元が唱えた。これに対して、現代の医学用語では「心身症」などと表記している。こちらは「シンシン」だ。
辞書によってはどちらも同じとするものもあるけれど、「身心」は身を重視していると考えた方がいい。
さいきん埼玉大学の豊田正嗣准教授らが発見したところでは、植物は葉が傷ついたとき、グルタミン酸を流出させ、他の葉に傷ついたという情報を伝達しているという。その結果、他の葉は抵抗性を高める。
グルタミン酸といえば、うま味成分として知られるけれど、人間の脳では、記憶・学習などに関わる神経伝達物質として働いている。
痛みがあるから、ぼくたちは身体の危機を察知し、備えることができる。危険回避が生命にとって最重要と考えれば、痛みの伝達物質が、記憶や学習につながるのもありえる気がする。
心と身体が連動する「シンシン」ではなく、身体とともに心が作られていく「シンジン」。心が痛むとき、理性の言葉より、人肌の温もりがどれほど恋しかったろう。痛みを知る人は、味わいがある。
埼玉大学の研究結果は、『うま味が痛みを伝えている!?』をどうぞ。
身体化認知については、心理学ミュージアムにある『体を温めると心も温まる(身体化認知)』が分かりやすいです。また、論文『我が身をつねって人の「心の痛み」を知れ』(PDF)も参考になります。
身心一如については、『「心身一如」の由来を道元・栄西それぞれの出典と原典から探る』(『全文はこちら』(PDF))が参考になります。
これまでのコラムでは『喜びも痛みも報酬に』『痛いの痛いのとんでいけ』をどうぞ。