小橋 昭彦 2018年10月26日

京都大学の研究グループがこのほど、育児経験と他人の感情の読み取り能力の関係について調べた結果を発表した。それによると、子育て経験のある人は、そうでない人より、他人の表情から感情を正確に読み取ることができたという。

乳児は自分の思いを言葉で表現できない。だから母親は、表情や声をたよりに乳児の思いを知り、適切な対応をとることを求められる。結果的にそれが、大人の表情から感情を読み取る能力も高めているらしい。

さすが母親というところだけれど、気になるのは、この読み取り能力には個人差があって、不安傾向の高い母親ほど、相手の表情を敏感に知覚しているという点。
研究グループでもそのことに着目し、今後研究を進め、産後うつや育児ストレスの理解と対策に役立てたいとしている。

これは同時期に発表された別の研究だけれど、ユタ大学の研究者らによると、カップルが不幸せと感じているのに関係を続けるのは、相手がそれを望んでいないと思いやっているからだという。

これまでの研究では、カップルはもっと利己的な理由で判断すると考えられてきた。愛情を感じなくなったから分かれるとか、独りになるよりましだから付き合い続けるとか。ふたりの間に隙間風を感じていてもなお、相手への思いやりを忘れない。それが人間というもの。

一方でそれは困った問題でもある。暴力などあきらかに関係を解消した方が良いのに、あの人には自分が必要とがまんを続けるようなこともある。
不安であったり、ある種の心の弱さであったり、そうしたなかで人は、相手を思いやる。そのために自分を追い込んだり、傷つけたりする。ほんとうはただ、自分のことを思いやってくれる人とともにいたい、それだけなのに。

3 thoughts on “思いやりと不安と

  1. お久しぶりです。
    最近この講演録を読んだばかりでしたので、興味深く拝読いたしました。

    不安傾向が高い人ほど成績優秀?
    脳科学でみる日本人の特徴を中野信子氏が解説
    2017年5月12日 講義「脳科学と世界の中の日本」 #2/4
    https://logmi.jp/business/articles/234545

  2. お久しぶりです。比較文化的な視点もあるのですね。日本人は不安傾向が高い、なるほど。おもしろい講演録のご紹介、ありがとうございました! またGLOCOM等でお会いできることを楽しみにしています。

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