小橋 昭彦 2002年1月27日

 久しぶりに「千年持続する」という言葉に出会った。東京農業大の長島孝行助教授のインタビューの中でのことだ。千年持続学会の設立準備委員とあり、納得する。
 インタビューは、絹糸の研究についてのものだった。絹糸といえばカイコやシルク繊維というイメージが一般的だけれど、糸を作る昆虫は地球上に10万種以上ともいい、同じたんぱく質を成分とする糸であっても、アミノ酸の組成によって色や構造はさまざま。
 シルクには紫外線をさえぎる性能があるし、菌を増殖させない性質もある。これを応用すれば、防腐剤を含まないUVカット化粧水が作れる。シルクは手術糸に使われるくらいだから、安全性も高い。ジャムに入れれば、口当たりがよく食感が増す。衣料だけではなく、さまざまな分野への応用が考えられている。
 こうした、昆虫の持つ特性を利用する技術を、インセクト・テクノロジーという。シルクと並んで有名な例は、ミツバチが巣を作るために出す蜜蝋(みつろう)の利用。ワックスなどに利用され、安全性の面から注目を集めている。
 古生代から地球に現れ、いまでは1千万種以上とも言われる昆虫。思い起こせば、子どもの頃の夏休みに虫網は欠かせなかった。トンボを糸にくくって飛ばすのも定番の遊び。間違えて首にあたる部分に糸を結ぶと、飛び立とうとして糸を引いたトンボは、そのまま頭がちぎれて地上に落ちた。苦い思いをした。たぶんそれは、生き物を殺めたことへの苦さだったろう。
 昆虫を食べる文化もある。日本ではイナゴ、蜂の子、カイコが三大昆虫食だという。生きることの意味、食、千年持続技術まで。昆虫は多くのことをぼくたちに教えてくれる。そんな感謝の思いとともに、今年の夏は、子どもと昆虫採集をしようかと、はやから楽しみにしている。

9 thoughts on “インセクト・テクノロジー

  1. こだわりアカデミー」の昆虫の章に関連した対談が掲載されています。長島孝行助教授のホームページは「東京農業大学昆虫機能開発研究室」へ。関連記事は「繭が万能素材になる」「インセクト・テクノロジ」「昆虫が作る素材に注目」などを。千年持続学については「赤池学の「千年持続学」の世紀へ」をご参照のほど。また、「日本昆虫協会」もぜひ。

  2. 日本人の「短頭化」止まる(日経12月25日)? 「(笑い)」の原点は演説を速記にとる技術が定着した明治20年代(朝日12月25日)。宇宙は薄い青緑色(日経1月11日)。

  3. 「繭が万能素材になる」を読んでびっくりしました。
    アレルギー持ちが多い現代人(私もその一人)
    希望が出てくる話です。

    どこか忘れましたが、ゴキブリも栄養源として大事にされている社会がたしかあったような・・・
    食べ物のタブーや「清潔/不潔」観は
    文化によってほんとうに違って驚くことがあります。

    また、「今日の遼太朗」コーナーは泣けました。

  4. 「昆虫の雌雄は細胞単位で決まる」という話をどこかで読んだ記憶があります。
    だから、体の半分が雄で半分が雌とか、頭だけ雄とかいう個体ができるんですね。(いわゆる“雌雄モザイク”)
    こうした“性”に対する昆虫独自のアプローチにも非常に興味があります。

  5. 世界の食料危機は昆虫を食べることによって回避できる、
    という予測があるそうです。食文化の違いを理解すること
    は非常に難しいでしょうが、それが世界の食料危機や環境
    破壊に繋がっている可能性も否定できないのではないでし
    ょうか?今後、食料に関しても、農業・漁業・畜産などの別によらず、環境等を考慮して地球的な規模でコントロー
    ルされなければならない時代が来るかも知れません。もし
    かすると「食用」の昆虫というのが養殖されたりするかも
    知れません。ミツバチなどはその第一候補でしょうね。

  6. 面白いですね。
    先日蜘蛛の遺伝子を山羊に移植すると山羊の乳に蜘蛛の糸の成分が出てきてこれを繊維にするとものすごく強い糸が
    出来るという話を聞きました。
    インセクトテクノロジーってすごいですね。
    又楽しみにしています。

  7. 最近女性だけでなく、男性も冷え性の人が増えているとのことですが、先ず絹の靴下を履き、その上から綿の靴下を履くのがより効果的と聞きました。冷え性でお悩みの方は試してみてください。それからゴキブリですが、中国では古くから漢方薬として使っていますね。シナゴキブリを煎じて血管拡張・神経痛・痔・骨折薬として用いられているようです。漢方薬の一覧表に、ショ虫(サツマゴキブリ)主な効能:破血 薬用部分:成虫全体 形状:生 価格:100g3500円 とありました。駆お血薬(血の滞りを除く)の一つとのこと。不妊症にも効くとか。マレーシアでは、風邪の治療法の一つに、薬店で買ったゴキブリ1匹と梅干1個に湯を注ぎ、その湯を飲んだりするそうです。日本でも、ゴキブリの羽はクワガタムシのそれと同じ成分(キチン・キトサン?←記憶が定かでない)があり、クワガタムシは少数で高価だが、ゴキブリは幾らでも捕れるので、このゴギブリを利用できないかと研究している所があるようです。ゴキブリは汚い、不潔というイメージがあります(私も大の苦手)が、生まれたてのゴキブリは菌はないそうで、無菌室で育てれば大丈夫とのこと。「地球上で口に出来ない物はない、寧ろ人間の口から出て来るものの方が汚い」というような言葉(戒め?)を聞いたことがあります。

  8. 皆さんとは異なるコメントというか質問ですが、現在、蜘蛛の糸の分子構造は分かっているのでしょうか?遺伝子工学を用いて蜘蛛の糸を生産すると、倫理的にひっかかる部分もあると思うので、有機化学を用いて合成してみてはと思うんですが、現在、世界中で蜘蛛の糸を全合成してらっしゃる方はいるのでしょうか?

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