テーブルの上にグラスを置く。
その中にはもちろん、空気が入っている。そして、大気中に浮遊する微粒子も。
微粒子の中には部屋の中を漂う綿ボコりもあれば、あなたの身体からはがれ落ちた皮膚もある。遠く砂漠から運ばれてきた砂塵もあるし、時には宇宙をわたってきた火星の塵だって混じっている。
グラス一杯の空気にこうした微粒子が数万個含まれているというから、ぼくたちは浮遊する微粒子の中に生きている。1日暮らしていれば十億のオーダーで体内に摂取していることになる。
日々部屋につもるホコリはそれらが落ちたもの。本来はカラフルなのだろうけれど、絵の具の各色を混ぜると黒くなるように、各種の微粒子がまじったホコリは灰色になる。
アリゾナ大学の研究者らが2009年に家庭のホコリを調査したところ、その多くは屋外に由来していたとか。
日本ではダスキンの研究所が家政学会で発表した分析があり、繊維が56%、土砂が28%、食物4%、毛髪3%など。繊維のどのくらいが屋外由来か分からないが、土足で持ち込まない分、アメリカよりは屋外率が低いかもしれない。
PM2.5が知られるようになったのは、2010年頃だったか。
浮遊微粒子の中でも、とりわけ2.5マイクロメートル以下の小さなものには人為的な汚染に由来するものが多く、健康に悪影響を与える。
こうした知見が積み重ねられ、2006年にWHOが、その後環境庁が環境基準を改訂した。にわかに注目されるようになったのにはそんな背景があった。
米国の研究所が昨年発表した調査では、年間500万人が大気汚染を原因とする疾患で亡くなっている。世界全体で寿命を約1年8カ月縮めたことになるそうだ。
とんと手に入らなかったマスクも、ようやく市中に出回り始めた。手縫いのおしゃれなデザインのものも見かける。
自粛は押し付けられるものじゃない。デザインマスクのように、それぞれなりの自粛を楽しむ余裕ができればと願う。
傍若無人は問題外としても、交わってグレーに沈むホコリのようになっては、社会はつまらない。
PM2.5については、神奈川県の「PM2.5の環境基準について」の解説がわかりやすいです。環境省「微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報」も参考に。
生活習慣病定着への流れは、厚生労働省の「我が国における健康をめぐる施策の変遷」からどうぞ。
室内のホコリの分析は「Migration of Contaminated Soil and Airborne Particulates to Indoor Dust」がもとの論文。日本語記事では、「「一体どこからこんなに大量のホコリが……?」長年の素朴な疑問が科学的に解明される」がていねいです。そして日本での調査は、「室内塵中の成分分析」を参照しました。
それから、大気汚染の世界での影響については、「State of Global Air 2019: Air pollution a significant risk factor worldwide」によりました。
なお、当時はPM2.5という表現を使っていませんが、空気中の微小粒子については「塵」も参照ください。当時参考にした書籍『小さな塵の大きな不思議』を今回も参照しました。