小橋 昭彦 2020年5月11日

病気観に触れた先日のコラムへのコメントで「抗菌グッズ」が流行ったことがありましたねといただいた。そういえば過去に清潔志向を取りあげたことがある。2002年の6月だ。

1996年にO157騒動があった。その名を持つ腸管出血性大腸菌を原因とする食中毒が広がったもの。犯人と誤認されて風評被害が広がったカイワレ大根を、当時の厚生大臣がサラダで食すパフォーマンスを行って鎮静化を図ったりした。

90年代半ばから始まる抗菌ブームにはそんな時代の影響もあったのだったか。

抗菌ブームの頃、一方で「衛生仮説」という言葉を耳にした。生育期に衛生的な環境で育った人はアレルギー疾患になりやすいという説で、1989年に英国のストラカンが疫学研究の結果発表したものだ。

あの衛生仮説、その後どうなったのだろう。

国立成育医療研究センター研究所の松田明生免疫療法研究室長が昨年発表した論文があったので目を通す。それによれば、少なくともぜんそくや花粉症については裏付けられてきている。

ストラカンの研究はきょうだいが多い方が花粉症や湿疹になりにくいというものだった。一昨年には、農村育ちの子どもの方がぜんそくや花粉症が少ないというスウェーデンからの報告も出された。

注目されているのはエンドトキシンという、ある種の細菌から出される毒素。アレルギー罹患を抑制するには、乳幼児期に継続的に、適度な暴露があると良いらしい。

エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁を構成する成分で、血液などに侵入すると発熱や多臓器不全を引き起こす。コレラや赤痢、冒頭のO157もグラム陰性。

つまりエンドトキシンに適度に触れる環境というのは、細菌が多い環境ということでもある。感染症が心配な環境でもあるのだ。

新型コロナウィルス感染症対策による徹底した消毒社会の先がどこに行くかは見通せない。しかし農村社会が感染に弱いかというとそういうわけでもなく、きっとどこかによいバランスがあるのだろうと、そんな希望を抱いている。

5 thoughts on “衛生仮説の向こう側

  1. 最初に抗菌ブームについては、化学工業会による「化学工業」2018年第3号掲載の「身の回りの抗菌加工製品と関連規制の動向」を参考にしました。これによると95年から97年がブームとありますね。カイワレより先?

    衛生仮説については、「基礎から見た衛生仮説の再考(2019、松田明生)」を現状の参考にしました。また「衛生仮説(2006、斎藤博久)」も参考にしました。

    清潔だとアレルギーになりやすい?「インハンド」に登場の「衛生仮説」とは」あるいは、酪農学園大学「人気テレビドラマで使われた「衛生仮説」とは?」も分かりやすいです。

    D. P. Strachanの論文は「Hay fever, hygiene, and household size.」ですが、とても短い。スウェーデンの農村の話は前述の文献でも出てきますが、「Eating fish and farm life reduce allergic rhinitis at the age of twelve.」です。

    エンドトキシンについては、「空気中エンドトキシン濃度と浮遊細菌濃度に関する基礎的研究」の研究背景部分などを参考にしました。グラム陰性菌から出るんですよね。「グラム陰性桿菌による院内感染症の防止のための留意点」など読むとなかなか怖いです。でも、それがアレルギー疾患を防ぐという不思議。

    なお、過去のコラムは、「清潔志向」です。

  2. 感染症の悪者(病気をうつす奴)には細菌とウイルスの二つがあります。抗菌の「菌」は細菌ですが、今回のコロナはウイルスです。

    大胆に両者の区別を行うと、前者は生物(例:生物兵器としての細菌)、後者は物質。コロナは物質なので自分で移動することはできず、あくまで人が運び、人が移す。だから social distancing なんですね。人と人が接触しなければ移らない。

    手洗いが推奨されるのは、咳で外に出た活性化されたウイルスがドアノブ等に付着、ある程度の時間、活性化状態を維持、ドアノブに触れた別の手に移り、その手で顔の粘膜に移るから。

    ただ上記の「大胆に」といった部分は実は小橋さんがお書きになられると良いような、壮大な生物観の大転換があるのですが、ま、それはまた別の機会に。

  3. ありがとうございます。実は細胞壁に由来するエンドトキシンの話に続けて細胞壁を持たないコロナに関連する話に繋ぐのはどうかなと思ったりもしていました。

    近年は両者の垣根の見直しが進んでいるようですね。また書けたら書きたいと思います☺️

  4. ちょっとスピリチャルすぎる気もしますが、人間の身体に防御機能が備わっているように(アレルギー反応や発熱含め)地球(自然界)にも同様にそういった機能が備わっているということなのではないかという気がしています。
    今回のコロナ禍において経済活動が低下した関係で、世界中で大気汚染が改善したりしていることはいくつか調査結果が報告されていたように、一定の期間と閾値を持ってこういったことが今後も繰り返されるのではないかという気がしていますがどうでしょうか。

  5. ありがとうございます。ガイア仮説というのがありましたが、そうした考え方で世界の流れを見るのも必要だと思います。

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