小橋 昭彦 2018年11月9日

レジリエンスという言葉が目立ち始めたのは、2011年の震災以降のことだったろうか。傷ついても回復する力のことを言う。必ずしも心理的な用法ばかりではないが、回復力とか、逆境力とか訳されたりもする。

大きな災害や近しい人の死、挫折などの苦しみを乗り越える力は、特殊なものと思われてきた。だけど、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症してもおかしくない状況に関わらず、それを乗り越える人たちがいる。その理解を深める形で、レジリエンスへの注目が高まってきた。

近年では、それは人間に広く一般に備わっている力と考えられている。そして、その力を高めるプログラムを提供するといったことも行われるようになってきた。

つまりこういうことだ。人の身体には、病原体が入ってきたときにそれを排除し、平常な状態に戻そうとする仕組みが備わっている。同じように、心においても、傷ついたときにそれを治癒し回復させる仕組みが備わっている。

ではそれはどんな仕組みなのか。そこがまさに研究が進んでいるところで、個人の資質であったり、取り巻く環境であったり、後天的に獲得できる考え方であったりするようだ。

アメリカ心理学会では、レジリエンスを形成する方法として、良い対人関係を作ること、変化を生活の一部として受け入れること、自分を大切にすることなど、10項目をあげている。

レジリエントな資質というのは、ある日急に備わるものではない。でも、変われることを信じ、変わりたいと願うことで、涵養されていくものでもある。

ぼくたち人類は、多くの災害を乗り越えてきた。ときには明日に絶望する辛い時期もあった。それでも、その中に希望を見出し、歩み続ける人がいたからこそ、絶滅せず、今日ここにいる。
レジリエントな人類は、そういう進化の中で生まれてきた。だからぼくたちは、自分の中にある力を信じ、今日とは違う明日を目指して、変わっていこう。

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5 thoughts on “レジリエントな世界への処方箋

  1. 執筆にあたっては、『臨床心理学 第17巻第5号』掲載の諸論文を参考にしました。また、日経サイエンス2011年6月号掲載の『立ち直る力のメカニズム』も参考にしています。ちなみにこの号は東日本大震災のすぐ後の号ですが、科学誌という立場からできることを考えてのこうした記事の掲載、すてきだなぁと思ったことを覚えています。

    ほかに、広島大学心理学研究17号掲載の『レジリエンスに関する研究の動向と展望 : 環境要因と意味づけへの着目』、明治大学心理学研究04号『最近のレジリエンス研究の動向と課題』、日本保健医療行動科学会年報第26号『レジリエンス研究の展望』も参考にしました。

    アメリカ心理学会のレジリエンスを涵養する10のコツは『The Road to Resilience』からどうぞ。

    その他、『世界の研究者は「レジリエンス」をどのように捉えているのか』、『折れない心”の育て方 ~「レジリエンス」を知っていますか?』なども、参照ください。

  2. 小橋さんのコラムでは人間の心理的な側面に力点が置かれた「レジリエンス」が取り上げられていました。これをもう少し経済のメカニズム、システムの中に取り入れるべきだ。むしろレジリエンスとい視座から「経済学」を構築しなおそう、という動きもあります。

    そのことに関連した「知識カード(書籍の新レーベル、iCardbookの記事のこと)」として下記があります。

    ご参考まで。

    レジリエンス – iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/147670

    資本基盤管理の方針 – iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/781078

    生物多様性(biodiversity) – iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/352975

  3. いいですね! レジリエンス、確かに、その他の応用も進んでいるのですがそこまで触れると広がりすぎるので絞らせていただきました。知識カード、参考にします。またあらためて触れるかもしれません。

  4. 素晴らしいお話に、心が癒されます。7月に最愛の兄が83歳で他界しました。頼りになる兄でした。
    死期が近付いていることなど知りませんでした。本人は東京在住で。私は多治見市在住。79歳。
    タイミングよく、この文章に接し、感謝しています。

  5. ありがとうございます! もう、このお言葉だけでコラム執筆が報われた気がして、ほんとうにうれしく思っています。こちらこそ、感謝いたします。

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