ミラーニューロンの発見は1990年代後半のことだった。サルの実験で、実験者の行動を見ているだけで、実際に自分が動いたときに活動するのと同じ脳神経が活性化していたというもの。脳にあっては、空想であっても実体験と同じはたらきをする。
心的表象と言うのだけれど、たとえばスポーツ選手は、試合における様々なシーンを思い描き、自分の中で蓄積しておくことで、実戦においても最適なパフォーマンスを引き出すことができる。
最近では、同じイメージトレーニングをするなら、たとえば文章を読んだりビデオ映像を観たりするよりも、視覚を三次元空間でおおって仮想的な体験をする仮想現実(VR)の方が効果が高いことがわかってきた。
スタンフォード大学のベイレンソン教授の著書によれば、アメリカン・フットボールチームが実際にVRを使ってシミュレーションすることで、実戦で生きた事例もあるという。
教授らは最近、VRを用いてホームレス体験をした人は、ビデオ映像で同じ体験をした人より、ホームレスに親切に対応する傾向があると発表していた。
VR体験が及ぼすこうした影響は、一方で倫理的な心配も生じさせる。たとえ仮想的な体験であっても、人の心に傷を残す可能性があるから。
先日、神戸の「人と防災未来センター」に出かけて、1995年に起こった阪神淡路大震災の再現映像を観た。壁面いっぱいの映像と身体にひびく音声に、当時の体験がよみがえる。はじめに係員から「床などは揺れません」と聞いているのに、揺れる思いもして。
いっしょに出掛けた仲間と、平和な日常の得難さについて話した。
仮想体験は、ぼくたちに強く訴える。しかしぼくたちは、この現実が持つ豊かな色彩や匂い、肌触りを忘れてはいけない。
仮想体験があまりに強烈だったときの対処について、ベイレンソン教授は書いている。
「ただ目を閉じればいい。」
そうすればぼくたちは現実に戻ってくる。これからの時代、そうして戻ることができる現実を愛しむことにこそ価値があるのだろう。
ベイレンソン教授の著書は、『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』をどうぞ。
その最新ホームレス実験は、『Becoming Homeless: A Human Experience』に基づくもので、『Virtual reality can help make people more compassionate compared to other media, new Stanford study finds』をご参照ください。
コラムでは触れられませんでしたが、仮想体験については、『VRで断頭台に……刃が落とされた瞬間ユーザーに起きた“異変”』なんて話もありますので、要注意ですね。
『人と防災未来センター』、機会があればぜひ。さいきん、ダークツーリズムが流行っていますが、怖いもの見たさという意味ではなく素直な意味で、広島や福島、そしてこのセンターなど、観光資源として重要と感じています。
VRが身体に及ぼすインパクトとして、つい先日これを読んで震え上がっていました。
試す気は全くありませんが…。いつかどこかで線引きをしないと大変なことになる気がしますが、線を引く、というのはいつも難しい問題です。
少なくとも、親として子供に教える、そこについては責任を果たしたいと思います。
https://www.moguravr.com/vr-guillotine/
あ、既出でしたね…失礼しました!
いえいえ、ありがとうございます!