ぼくたちはこの身ひとつで生きているのでは無い。
たとえば腸内フローラこと腸にすむ細菌類は、ぼくたちの健康に欠かせない。その数、人体の細胞総数よりはるかに多く、重さにすれば1キロを超えるという。
寄生虫もまた、悪者とは限らない。東京医科歯科大学の藤田紘一郎教授は、花粉症などのアレルギーが増えてきたのは、回虫を体から一方的に追い出したことが要因ではと指摘している。
今年の8月には、猫に寄生するトキソプラズマに感染した人は起業志向が高いという、コロラド大学の研究発表が話題になった。たとえば社会人においては、感染している人は、そうでない人に比べて起業する傾向が1.8倍だったという。
トキソプラズマといえば妊娠期に悪影響を及ぼすことで知られている。それが起業のような大きな判断まで左右しているのかと驚かされる。
トキソプラズマに感染したネズミが猫を恐れなくなることは知られていた。因果関係が明らかになったわけではないが、こうしたリスクを恐れなくさせる特性が、人間にも影響している可能性はある。
寄生というと思い出すのは、オールディスのSF『地球の長い午後』に出てくるキノコ、アミガサダケだ。主人公の脳に寄生して行動を支配する。
猫が人間社会に入ってきたのは農耕が始まった頃。同時にトキソプラズマも持ち込まれたとすれば、農耕以降の人類の急速な発展は、トキソプラズマによるベンチャー精神がもたらしたものだろうか。
さすがにこの空想は極端にすぎるけれど、共生についてあらためて考えさせられる研究成果だ。そういえばオールディスの作品では、人類の発展はアミガサダケによる寄生のおかげという設定だった。
トキソプラズマと起業精神を取り上げた論文は、「Risky business: linking Toxoplasma gondii infection and entrepreneurship behaviours across individuals and countries」で、大学の発表は、「Cat Parasite May Affect Cultural Traits in Human Populations」です。
日本語のリソースとしては、いくつかありますが、「果敢に挑戦するマインドは猫のお陰?「猫と起業家」の興味深い関係とは」などの報道をご参照ください。
また、藤田教授の指摘については、日本環境動物昆虫学会での基調講演「ヒトと生物との共生とはどういうことか」などで読めます。
なお、猫が人間社会に入ってきた経緯については「ネコは自ら家畜化した、遺伝子ほぼ不変、最新研究」がおもしろいです。人間が家畜化したのではなく、最初からその状態だったのですね、猫って。
つい最近子供と「ハリガネムシ」がカマキリに寄生した挙句カマキリを操って…という話で動画を見たばかりでした。その時に冗談で「人間にも寄生して操られていたりして…」なんて笑っていたばかりでしたので大変参考になりました。早速子供に、どうやら人間も操られているらしいぞ!と脅かしてみます。
いつもありがとうございます! いいですね、自然界の不思議を感じるきっかけですね(^^