小橋 昭彦 2011年5月10日

日経サイエンス2011年6月号の特集は東日本大震災。なかに心理学方面から心の回復力を取り上げた記事(「立ち直る力のメカニズム」G.スティックス)がありました。回復力の英語はresilience。反発力というのが語義。

回復への過程は人それぞれです。悲しい中に、笑いもあります。強がりの笑い、というわけでもないそうです。

(前略)ビデオをスロー再生して、眼の周りの眼輪筋の収縮を調べた。この表情筋の動きでできるしわは「デュシェンヌ線」と呼ばれ、これを見ると、本物の笑いと儀礼的な笑いを見分けることができる。その結果、悲嘆に暮れている人の笑いは本物だと判明した。

また、通常の状況ならナルシズムにとらえられかねないような「自己高揚バイアス」に陥る人もいます。だけど、そのおかげで、「あのときこうすればよかった」という終わりのない責めから脱出できているのかもしれない。

先の笑いの研究と同様、死別を経験する過程をより詳細に見ると、喪失への健全な適応過程を表すのに使われてきた分類にうまく当てはまらないような、さまざまな反応がとらえられた。それが複雑多岐にわたるのを見て、ボナーノは従来の分類に当てはまらないこうした反応を「不格好な対処法」と名づけた。

不格好でもいいじゃん。そうした人それぞれの対処法が、心を救っている。

回復力の本質は何かという問いに、脳と化学の方面から解説した部分についてもメモしておきます。

危機的な状況下になると、ストレスシグナルとしてコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)が大量に分泌される。このホルモンがさまざまな化学物質を誘発し、戦うのか逃げるのか、さまざまな選択肢が活発に脳内で検討される。でも、ストレス状況が長く続いてこうしたストレスホルモン(たとえばコルチゾール)が大量に分泌された状態のままになると、心や身体を傷つける。回復の早い人は、ある種の保護物質を持っていて、こうしたストレスホルモンの働きが早い段階で抑制されるという。そうした化学物質はたくさんあるそうだ。たとえば視床下部で作られコルチコトロピン放出ホルモンを阻害して不安を鎮めるニューペプチドYなど。

最後に、どうしてぼくたちは回復力を持っているかについて、コロンビア大学のGeorge A. Bonannoの推測。

誰かを失った後の沈んだ気分は癒しの助けになるが、仮借のない深い悲しみは、病的なうつ状態のように、とうてい耐え難いもので、人を押しつぶしてしまう。このため、たいていは私たちの脳の中の回路が働いて、悲しみに打ちひしがれた心理状態が続かないようにする。

進化心理学的な観点からも納得できる話です。悲しみを乗り越えられなかったら、死別の多かったろう古代から現代まで、ヒトは生き残れなかったでしょうから。これまでも何度も大きな悲しみを乗り越えてきた。それがヒトという種なのでしょう。

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