小橋 昭彦 2008年5月19日


 先に『怪しい科学の見抜きかた―嘘か本当か気になって仕方ない8つの仮説』を紹介した。今回の副題が「ニセ科学を見破る思考実験」だから、似た路線。もっとも、読みやすさということでは本書に軍配があがる。その分、踏み込みは浅くなってしまうけれど。
 世の中にはニセ科学があふれている。
 マイナスイオンだって例外ではない。では、それを見破るにはどうすればいいか。
 本書で言う「思考実験」とは、世の中に出回っている言説がまずは「仮説」であることを認識し、さまざまな情報で検討しなさいと、単純に言えばそういうことだ。そうすると、仮説の中でも「いわれている」という伝聞レベルにすぎないような「黒い」仮説と、定説に近い「白い」仮説があることが分かるようになる。
 そういう、シンプルな話。
 だけど、そのシンプルなことが、案外できない。
 おまけに、テレビだ。どれほど多くの人が、健康番組に代表されるテレビ「仮説」に踊らされることか。
 たとえば、化学実験で、ある物質の特性が明らかになったとする。それをもとに「○○という物質は身体にいい」というのが、典型的なテレビ的健康言説だ。
 しかし、実験で確認される素材レベルの出来事が、統合された人体というレベルでも適用できるのかは、別の話だということに、気づかない人が多い。
 本来的な意味での身体にいいかどうかは、何千、何万という人を対象に、副作用を含め長年観察して記録しないと、分からない。つまり、真実というのは、統計的な分野に属することが多い(ちなみに『怪しい科学の見抜きかた』の基本的アプローチも統計だ)。
 テレビといえば、視聴率についての分かりやすい説明が本書に掲載されている。
 視聴率が21.4%の番組と19.8%の番組があったとする。これをもとに、前者の番組のほうが視聴率が高いといえるかどうか。
 視聴率というのは、関東地区であれば600世帯のサンプルから計測されている。この場合、統計的な誤差はどれくらいか。
 正確な計算はそれなりに複雑だそうだけれど、簡易的には、調査数の平方根をとればいいという。この場合だと、600の平方根だから、およそ24世帯。24世帯というと、600世帯の4%にもなる。ということは、差が4%以内だと、誤差の範囲内なのだ。
 だから、視聴率が21.4%の番組と19.8%の番組では、誤差の範囲内であり、もしかすると後者の方が高いかもしれない。
 とはいえ、業界ではこうした誤差の範囲内の上下にも一喜一憂、テレビCMの広告費の算出に利用している。
 乱暴な話ではあるけれど、これはこれでいいのだ。それはある種のゲームだから。つまり、分かった上で、お互いそれをルールとして、そのルールの上で運用している。
 というのは、仮に精度を高めようとして倍の世帯にしても、1200世帯の平方根が約35世帯で、全体の3%。改善効果はしれているのだ。そのためにコストが格段に高くなることを考えると、現実的ではない。
 というわけで、わかった上で、運用している。
 大切なのは、この「わかった上で」ということだ。わかった上で、健康番組の言説を試してみるなら、まあ、それは本人の責任だろう。ほんとはね、何が健康に良いという以前に、この「わかる」コツを教えてくれることこそ、教養だと思うけれどね。
 そんなわけで、本書には、「酒豪と下戸」「血液型性格」「平均所得」「マンモス絶滅」など、興味深いエピソードが豊富に盛り込まれている。
 「わかる」コツを身につけるために、どうぞ。

1 thought on “白い仮説 黒い仮説―ニセ科学を見破る思考実験

  1. 「わかった上で」という事で・・・・。
    2年ほど前、妻の出身校の同窓会がありました。率先して幹事をしてくれる人が居て参加者間の名簿まで、出来ました。
    「う?ん。アツい友情」と思っていたら、幹事だった人物が、我が家まで尋ねてきました。
    「あの同窓会は私の発案で、目的は選挙活動でした。○○候補に、しゃあさんと奥さんの二票下さい」との事。
    今さら「僕達、私達の友情を選挙に利用した」なんて怒り出すほどアオくもありませんが・・・・。
    まぁ、「よく考えましたね」とか「そこまでするか」って、ちょっと呆れたかな。
    この場合「わかった上」の苦笑いですね。
    教養と言うよりも「そんなこったろうと思った」って言う歳の「枯れ」ですかね。

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