小橋 昭彦 2008年3月27日


 副題にある「文系でも楽しめる」というのは、理系の入門書の常套句。ついでに言うなら「数式を使わずに」というのもよくあるが、本書はそれはうたっていない。いないし、数式はシッカリ使われている。苦手な人は苦手だろう。しかし、そう怖いほど使われているわけではない。数式を繰るうちに数字がまるまり、「おおよそでもいいじゃん」ということが見えてくる、その醍醐味を伝えるための数式だ。
 そう、「およそ数学」が本書のキモ。
 水平線が何キロ先にあるかを求めるにはどうするか。ピタゴラスの定理から求めるのがいい。ここで地球の半径6,400,000メートルに対して、ぼくたちの身長は(いや富士山の高さだって)問題にならないほど小さいということが「およそ」で求めるときに役立つ。
 いきさつは本書にあたっていただくとして省略するけど、結局のところ水平線までの距離は、2乗すれば、「見ている高さ(h、単位はメートル)を2倍して6.4をかけた数字」になる値を求めればいい(答えの単位はキロメートル)。
 たとえばぼくの身長1.7メートルだと、それが見ている高さ(h)になるから、
1.7×2×6.4=21.76
 だから、2乗して21.76になる数字を求めればいい。
42=16
52=25
 だから、だいたい5に近い数字だとわかる。まあ、約5キロでいい。
 この「およそ」の計算方法はおもしろい。試しに、彼女が来たから砂浜に座ってみることにする。hは1メートルくらいになる。
1×2×6.4=12.8
 とすると、3キロよりは遠いけれど、4キロに足りないってことになる。ほんの少し座っただけで、水平線までの距離が1キロも短くなる。
 これは驚きだ。逆に子どもを肩車してhが2.5になれば、水平線までは約6キロになる。なんていうことだろう、肩車した子どもとぼくは同じ水平線を見ていると思っていたのに、1キロも違っていたのだ。
 もう少し。船が仮に10メートル高さにマストを立てているとすると、
10×2×6.4=128
 だから、11キロ少し先まで見通せることになる。これほどの効果があるなんて、船の艦橋が高いところにあるわけだ。
 なんてことをちょっとした計算で楽しめるのが、「およそ数学」の醍醐味だ。
 およそ数学は、右打者が一二塁間にヒットを打ちたければ、一二塁間ではなく二塁手を狙ってうたなくてはいけないことも明らかにする。ベクトルの足し算の問題だ(ところで、速度と速さが違うって知ってました? 速度=速さ+方向、なんです)。
 図形の話から運動の話と移ったので、体積の話からも、ひとつ。
 仮に天井まで3メートル、縦横が8メートル、10メートルの教室に、40人の生徒がいたとする。けっこうぎっしり生徒がいるっていう印象だけれど、実際にどのくらいの体積を占有しているのか。
 教室は簡単だ。
10×8×3=240m3
 となる。人間は、半径10センチ(ってことは2Πrでウェストは63センチだね)、高さ160センチの円柱と考えておく。底面積はΠr2だから、それに高さをかけるから、
0.1m×0.1m×Π×1.6=0.05m3
 40人集まっても、2m3にしかならない。ってことは、教室の容量の0.8%くらいしか占有してないってことになる。
 なんだか嘘みたい。でも、人体の平均密度が980kg/m3だから、体積0.05m3の人で体重50kgってことになる。間違ってはいない。
 こうして「およそ数学」は、日常生活に発見を与えてくれる。数学っておもしろい。

2 thoughts on “水平線までの距離は何キロか?―文系でも楽しめる「およそ数学」の世界

  1. アメリカ流学者さん。初めまして。
    ホントですね。勉強のつもりでなく、こう言ったハナシから入ってもらえると、興味が持てます。
    「興味が持てる」って素晴らしいですね。全てココから始まる。
    同様に歴史の勉強も、年号の暗記ではなく「○○はこんな人物だった」的なハナシから入ってもらえると・・・ボクもやる気が出たのに。
    と言うのは、単なる言い訳かな。

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