たむらしげるの幻想的なコミック『ファンタスマゴリアデイズ』の一編に、サボテンでできた飛行機が彗星にぶつかる物語がある。ぼろぼろになった飛行機をみて修理できるかと心配する同行者に、サボテンだから自分で治るよ、と言い聞かせる。妙に納得。
生物の傷は自然に回復するように向かうけれど、物質は難しい。そんななか、米イリノイ大学の研究チームが、細かなひび割れを自己修復するプラスチック材料を開発した(朝日2月16日)。液体の修復材が入ったマイクロカプセルと修復材を硬化させる物質を複合して混ぜ込んだエポキシ樹脂がそれ。材料にひび割れが起こるとカプセルが割れ、修復材が割れ目を満たす。それが触媒で硬化して割れ目を接着、修復されるしくみだ。
自己修復といえば、機械技術研究所でも3次元ユニット機械の自己修復を研究している。壊れた一部品にそれが全体のどの役割を担っているかの情報がなくてはならないなど、工夫すべきところは多いという。人間だって、手の甲の切り傷が回復途中で間違って指になっちゃったらたいへんだ。そういうのは回復ではなくホラーという。手の甲は手の甲という一部でなくてはならない。
家電リサイクル法の施行もあり、いま、壊れたり不要になったりした機械類の処分が話題になっている。製造と逆工程に気を配り環境負荷を軽減させる生産システム、インバース・マニュファクチャリングの重要性が説かれてもいたり。
考えてみれば、ぼくたちはいま廃棄の文明を生きていると言えるかもしれない。21世紀、自己修復の文明に移行することができるのかどうか。サボテン飛行機はまだ当面望み薄だけれど。
自己修復する機械の研究については、「機械技術研究所のプレスリリース」やそのキーマンへのインタビュー記事「自己組立・修復する究極の万能機械を追い求める男」、本人や研究仲間のページ「自己修復する機械の研究」「3次元ユニット機械の自己組み立てと自己修復」などをご参考に。インバース・マニュファクチャリングについては、解説記事「逆工程を入れる:インバース・マニュファクチャリング」をまずどうぞ。「インバース・マニュファクチャリングフォーラム」「インバース・マニュファクチャリング・システム研究会」「インバース・マニュファクチャリング・ラボ」なんてのもあるようです。