ヴォイニッチ手稿という文書がある。1912年に発見された、奇妙な文字で書かれた中世の文書。暗号だと言われ、第二次世界大戦で日本海軍の暗号を破った米軍の暗号解析者たちが手遊びに解読に挑戦するなどしてきたけれど、いまだ誰も成功していない。
単なるでたらめかもしれない。最近の研究で、中世のカルダーノ・グリルという道具を使えば、似たような文書を作れることがわかった。穴の開いたカードを文書にかぶせ、窓から見える文字をつなげる。あるいはそのようにして詐欺師が王朝からお金を巻き上げるために偽造したのだったか。
もう少し新しいところではビール暗号。こちらは1820年頃にヴァージニア州のホテルに宿泊した旅人が残したもので、3枚あって数字がびっしり書き込まれている。自分が隠した黄金について、1枚目に隠し場所、2枚目に宝の内容、3枚目に相続者の名前を記したという。2枚目についてはアメリカの独立宣言を鍵に解けることが発見され、その結果を含めて小冊子として公表された。信憑性は高いのではないかと、今も挑戦が続く。
古代エジプトのヒエログリフにもあったというから、暗号の歴史は長い。別の文字に置き換える方式がずっと用いられていたが、文字の出現頻度を分析すれば解読できることが発見され、信頼が揺らいだ。ポーやホームズの作品にも登場する手法だ。その後新しい手法が生まれ、バベッジやチューリングといったコンピュータの歴史でもなじみの名前が解析者として登場し、公開鍵という画期的な一歩があり、最近では量子暗号の開発が続く。
ルイ14世の大暗号を200年の時を経て解いたバズリーは、頻出する文字の並びが「敵」を意味するのではないかと気付いたことがきっかけになったという。そんなちょっとした着想がヒントになる可能性。ハイテク暗号の時代にヴォイニッチ手稿やビール暗号に惹かれるのは、そんな魅力ゆえだろうか。
ヴォイニッチ手稿については「The Most Mysterious Manuscript in the World」が日本語で、かつ情報豊富です。「Voynich Manuscript」で画像など。wikipediaの「Voynich manuscript」及びそこからのリンクもご参考に。
文中で触れた最近の研究というのは「Gordon Rugg」によるもので、「The Voynich Manuscript: An Elegant Hoax?(Cryptologia Vol. 28 No. 1; January 2004)」です。カルダーノ・グリルについては「Scientific Method Man」の記事から左のリンクをたどれば、手法の画像説明があります。
ビール暗号については「The Beale Cryptograms」などをどうぞ。
暗号一般については『暗号解読』が、ときおりミステリーのようなおもしろさもあってお薦めです。オンラインでは「暗号の歴史」をどうぞ。
ワタシはヴォイニッチ手稿を知ったのはつい最近なんですが、
ファンタジーっぽい雰囲気にすごく心惹かれてしまいました。
なんとなく宮崎駿を感じさせる細かくて綺麗な絵も魅力です。