コップにミルクを注ぐと「ばんばーい」なんて言いながら乾杯をしたがる。1歳と半年あまりの手つきはなんだか危いのに、小さな手の中のミルクは、こぼれそうでこぼれない。親がサポートしようとしたときに限って、こぼしてしまうものだ。
コップを持ち、相手とグラスを合わせ、自分の口元に戻して飲む。これら一連の動作をとどこおりなく行うには、ある種のコツを身につける必要がある。そのコツとはいったい何なのか。動作のはじめから最後まで、細かく所作が決まっているわけではない。かといって、瞬間瞬間を意識して行為をしているかというと、そういうわけでもなさそう。
乾杯のシーンをビデオに撮るとする。相手とグラスを合わせる行為と、飲み干そうとする行為の分かれ目を示せといわれたら、誰でもほぼ同じコマを指摘する。そこで、そのコマの前後を切り出したビデオと、逆にその前後だけを抜いて編集したビデオを作る。両者を見せて、何のシーンかと尋ねたら、正しく答えられるのはどちらだろう。答えは、たとえ短くてもグラスを合わせる前後を切り取った画像の方。人間は行為の切れ目から多くの情報を得ていて、それは分節点と呼ばれる。
人間の行動もまた、分節点の前後で精度が求められ、その間は比較的自由に流されている。東京大学知能情報システム研究室で開発された、寝転んだ状態から脚を振り下ろす反動を利用して起き上がれるロボットは、そんな理論を応用している。コツをつかむのが上手な人とは、分節点を把握するのが上手な人といえるのかもしれない。
懇意にしている漢方の店に、経絡人形が置かれている。体表に網の目のように線がひかれ、ツボが表示されている。年の瀬、それを眺めながら、世の中もそんなものかもしれないと考えていた。一本の流れのように見える出来事も、分節点で連なっている。だとすれば、起き上がれそうにない難問にも、きっとコツが見出せる。新しい年。
「東京大学知能情報システム研究室」の國吉康夫教授による解説「機械はコツを身につけられるか」を参考にしました。ロボット起き上がりの映像は「こちら」。「日本ロボット学会」もご参考に。人間のコツに関する心理学実験は、「Darren Newtson」によるものですが、原文を参照できていません。経絡人形はたとえば「エーザイ 内藤記念くすり博物館」などに写真があります。
そういえば、星新一氏のショートショートに、何の働きもないけど、会社存続のツボであるためだいじにされているサラリーマン、という話があった記憶があります。
先生
明けましておめでとうございます。
私のうんちくの原資として大いに役だたせていただいております難うございます。
あけましておめでとうございます.
今年も良質なコラムを楽しみにしております.
ウチの二歳のチビ達も、コップを持つ手の危うさにこちらが思わず手を出すとだいたいこぼしてしまいます.他人が途中で手を出すことは分節点を強制的に設けることであり、その新設された分節点以降の行動に対応できないということなのでしょうか.彼らなりの分節点を見極めてその瞬間に手を出せば、我が家のカーペットの染みももっと減ったのかもしれませんね.大人で言うと、行動の途中唐突に発生した分節点に適切に対応できることが運転やスポーツの”うまさ”に繋がるのでしょうか.
ところで昨年九月の”あくび伝染”の話ですが、正月休みに夜更かしが増えたチビ達(一卵性の双子♂×2)をじっくり観察したところ、片方があくびをしてもそれを見ている他方にうつることはほとんどなく、別々にあくびをしておりました.ということはやはりあくびの意味を知るようになってからの後天的な要因が大きいのでしょうか?上の小学2年生の兄ちゃんを含めて観察すればよりはっきりするかも知れません.ちなみに私は幼児のあくびでもうつるようです.旧ネタの蒸し返しですみませんでした♪