小橋 昭彦 2003年12月8日

 運動器。骨や間接、筋肉や神経といった身体を動かす組織、器官のこと。WHOが協力して世界各国で研究を進める、運動器の10年という取り組みが行われている。腰痛やスポーツ障害、骨粗しょう症など、運動器に関わる障害は多い。これらを解明し、生活の質を高めていく。
 思い出したのは、人型のロボットの解説で出会った「自由度」という言葉だった。ひとつの関節で、前後に動かすことができれば1自由度。上下にも動けば2自由度。回転や伸縮なども自由度に加える。人間の腕は、肩に3つ、ひじに1つ、手首に3つ、合計7つの自由度を持っている。ところが理論上は、運動関節軸が位置と姿勢を決めるためには、全部で6つの自由度があればいいという。人間は1つ余分な自由度を持っているわけで、これが行動の柔軟性を生んでいる。
 人型ロボットを研究する早稲田大学ヒューマノイド研究所の高西敦夫博士らが1996年に開発した人型モデルは、片足3自由度、体幹3自由度、片腕7自由度、片手3自由度、首2自由度、そして片目2自由度の合計35自由度からなっている。人間の場合はというと、片手だけで5本の指それぞれに3つの曲げと1つの旋回、合計20自由度。
 加えて、たとえば表情を考えると、皮膚や筋肉の弾力性といったことも考えに入れなくてはならない。弾力性のある物質を制御する理論や技術はまだ確立していない。人の身体の、なんという自由さ。逆に言えば、ロボットと違って冗長性を多く持っていることが、人間らしさにつながっているわけでもある。
 今後、人型ロボットの研究を通じて運動器の仕組みに新しい視点がもたらされることもあるだろう。障害を受けた運動器をサポートする小さなロボットが生まれることもあるだろう。ぼくたちは自らの自由度を、どれほど活用しているか。ロボットという外部を探求することで、ぼくたちは自らを知ろうとしている。

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