旗はなぜはためくのだろう。風が乱れているせいではない。そよ風を考えるなら、それは規則正しい「層流」であり「乱流」ではない。それでも、旗は流れに沿ってまっすぐにならない。次元を落として、石鹸の層の流れの中に一次元の紐をはためかせた実験では、よく知られた渦のでき方と違い、糸が右に動くときには時計回りの渦、左に動くときはその逆の渦が続いてできることがわかっている。何気ない現象のように見えて、物理学的にはけっこう難問のようだ。
よく知られた渦と書いたけれど、たとえば風に鳴る電線のような例がそれ。電線に風が当たると、その後ろに空気の渦ができる。この渦は電線の両端にかわるがわるでき、回転方向もそれぞれ別の方向になる。それに振られて電線は音を出す。橋の上から橋脚の下流側を見ても、同じような渦を見ることがある。あるいはもっとスケールの大きな例では、冬の寒気が吹き出す頃、済州島の風下に見られる渦の列。こうした渦を、研究者の名前をとってカルマン渦列という。
ちなみに、魚が進むときにも渦はできる。身体の中心線を後ろに伸ばした左右に、上から進む方向を見て、右手は反時計回り、左手は時計回りの渦。後ろ向きの流れだけじゃないのだ。
幼稚園に通う長男が風呂場で渦を作る楽しさに目覚めたようで、みてみて、といいながら手を沈める。「なんでできるんやろ」尋ねられて、答えるのは難問。なんでだろうね、言いつつ、指を一本水面に立てて、すーっと動かす。その後ろに小さな渦が交互に並んでいく、それはカルマン渦列。ここから気象衛星の済州島画像につなげて説明できると楽しいのだけれど、まだ適した語り口を見つけられていない。風呂上りに湯を抜きつつ、コリオリの力が排水口に作る渦を見せたりもして、そうか、思えばこれも地球の自転によるものかと気づく。身の回りには渦がいっぱいあって、それぞれが大きな世界につながっている。
カルマン渦列については「カルマンの渦列」が初歩的でわかりやすい説明。「カルマンの渦列と流体の相似則」にあるように、以前のコラム「無次元数」で紹介したレイノルズ数と関係しています。済州島のカルマン渦列は、「済州島の風下にできるカルマン渦列」がわかりやすいかな。コラム中で述べた二次元下での一次元「旗」の実験は、「Flexible filaments in a flowing soap film as a model for one-dimensional flags in a two-dimensional wind(Nature 408 835 – 839 (2000))」です。あと参考までにコリオリの力は「水のうず巻のナゾ?」などで。
日常に様々な考えるヒントがあるのだと、いつも関心半分、自分の頭の弱さに諦め半分拝見しています。ところで以前、オーストラリアに行った知人が風呂場の渦巻きが日本と逆だったと言うのを聞いてびっくりしたことを思い出しました。自転とか引力にまでは考え及びませんでしたが、地球の不思議に素直に感動を覚えたものです。
うろ覚えですが「コリオリの力」はある程度、マクロな状態でないと(例えば台風とか海流)発生しなかったのでは
?
アメリカの大学で競泳用プールを使って実験したという話を読んだことがありますが、おそらく風呂場でごらんになったのは「別な要因による渦巻き」であって、「コリオリの渦巻き」では無い様な気がします。
(もちろんコリオリの力は働きますが、とても微弱です。)
間違っていたらすみません。
赤道上では風呂の渦巻きはどっち巻きになるんですかね?