小橋 昭彦 2003年7月10日

 なんば歩き。右足を出すと右手を出す、左のときは左という歩き方と一般に解説される。江戸時代まで日本人はそんな歩き方をしていたというと、たいていの人は信じられない。確かに、意識して右手右足を同時に出そうとするとぎこちない。いっそ手は腰にあててみる。刀を支えている気持ち。その腰を、尻をおされた感じですっと前に運ぶ。すると、片方の足が前に出て身体を支える、その頃にはもう一方の足は前に動き始めている。手は振らないつもりでいるほうがいい。
 歩き始めたばかりのわが子を見ていると、そもそもこうした歩き方をしていることに気付く。後ろ足で蹴って進むのではなく、倒れる力を利用して進んでいる。剣道や古武術がこの動きであることも知られている。しばしば見かける宅配便のマークにある飛脚もこの走り方。昔の人はこの動作を日常にしていたから、体をねじらず着物も着崩れなかったと言われると、そんなものかとも思う。
 小田伸午博士の「二軸運動理論」を知って、なんば歩きを新しい角度から見ることとなった。身体に中心線を持ってそれを芯に動く動きに対して、両足の股関節を通る二つの軸を持つ動きを言う。現代の歩き方は中心軸歩行だけれど、なんば歩きは右軸から左軸へと移動させつつ歩く。一直線の上を歩くのではなく、二本の平行線をたどると考えると良いかもしれない。
 これを野球の投手に適用した見方が新鮮だった。中心軸投法は腕の振りが胸からとなる一方、二軸だと右投手なら左股関節から右手の先までを利用して投げることになり、いわば腕が二倍長いイメージになる。サッカー選手でも二軸の動きを基本にしていると、片方の膝を抜くだけで方向を変えられるので動きがすばやい。どこかに中心があると考えるのではなく、二軸あってそれが移ろっている。それは何も運動に限ったことではなく、なにごとも、そうしてゆったりととらえた方がよさそうな、そんな気もした。

5 thoughts on “二軸の運動

  1. まずは小田助教授による『運動科学』をぜひどうぞ。「ようこそ!二軸の世界へ」もご参考に。ちなみに小田先生らは、なんば歩きを常足(なみあし)と呼んでいます。なんば歩きについては、「「なんば」歩き考」をどうぞ。「武術稽古法研究」の中にもなんば歩きについての考察が含まれています。古武術としては「武術稽古研究会松聲館」の甲野善紀さんが、桑田投手の指導などでよく知られるようになりました。その甲野さんと糸井さんの「対談」でも、なんば歩きについて少々出てきます。

  2. 日本舞踊の動きも基本的にはナンバです。
    能や狂言もそうです。
    武術と伝統芸能は身体の運びに密接な関わりがあります。
    伝統芸能のナンバの動きは農耕の動作から来ていると言われています。
    地面を耕すときにはナンバになっているでしょ。
    スコップで掘るときだって。
    そのほうが力が入るのです。
    盆踊りの「炭鉱節」も典型的なナンバの振りです。

    日本舞踊では、ポーズをつけて立ち止まるときには
    手と足を逆方向に出して、膝を深く曲げて、上体をひねります。
    すると、和服を通して体の線が出て、きれいに見えるのです。
    日本人形のポーズもこれです。

  3. はじめまして。
     
    歩行パターンはエネルギー効率?かなにかで
    歩いたり走ったりと変わる直感があるのですが、
     
    なんば歩きも歩行パターンは変化するんですかね?
    必要に応じて、我々日常の歩行から、自然と変化す
    るような状況がわかるとさらに面白そうですね。
     

  4. 日本の馬術では、馬まで「なんば」歩きに矯正されます。

    馬に乗るとき、西洋式馬術では、馬の左側から、いわば遠心力でヒラリと乗りますが、日本式は、右側から「よじ登る」のだそうです。これなんかも、「二軸」っぽいですよね。

  5. 二軸・・って、みんな惑わされていない? だって、京都大学の二軸先生は、トレーニング科学という雑誌にディベートを申し込まれたのに、受けてたてないくらい「いい加減な理論」なんだったよ。そこでは、二軸がボロクソ酷評されているのに、それに答えられないグループなんだって・・。小田先生以外でも、ディベートに参加したらいいのに・・・

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