犯罪心理学が注目されたと思ったら、こんどは科学捜査らしい。法医学捜査の最前線を描いた『科学が死体に語らせる』に目を通せば、プロファイリングへの皮肉めいた一文もあり、なんだかおかしかった。
ぼく自身が立ち会った15年前の記憶をたどるなら、捜査官は確かアルミニウムの粉をつけて指紋を検出していた。今では化学反応を利用した蛍光検出が主力という。そういえばカレーに毒物を入れた事件で、最先端の分析装置が用いられて話題になったっけ。DNA分析をはじめとして、捜査現場における科学はこの15年で格段の進歩を遂げている。
先端技術を用いた科学だけではない。米国ではここ10年ほどで、法医昆虫学が定着してきたという。死体にたかるウジなどの成長度合いから、死後推定日数を割り出す。マディソン・リー・ゴフによる『死体につく虫が犯人を告げる』に詳しいが、基礎データを集めるために、ヒトの腐敗分解過程に似た動物を利用して実地試験も行われている。その動物というのが、体重およそ23キログラムのブタ。人とて死ねば豚と同じかと、感慨を抱かないでもない。
もちろん、ブタを用いるばかりではない。コーンウェルの作品の題名にもなっているのでご存知の方も多いだろう、テネシー州には死体農場という場所がある。鉄条網に囲まれたなかには、献体された数十体の死体がさまざまな状況で置かれている。管理しているのは、テネシー大学のウィリアム・バス教授。自然の中に死体が転がる光景を想像すると、人間なんてしょせん、の思いを強くせずにはいられない。
もっともそれはなげやりな「しょせん」ではない。しょせん自然に還る身なら、今を生きることをおそれず、勇気を持って挑もうという、前向きの「しょせん」。検死を語る人が共通して、生きることの尊さを感じると述べていたのが印象的だった。
文中で紹介した書籍は、『科学が死体に語らせる』と『死体につく虫が犯人を告げる』です。日本ではかつて上野正彦さんの諸著作、たとえば『死体は語る』などが話題になりました。なお、検死を扱ったシリーズで人気のコーンウェル、文中で触れているのは『死体農場』です。テレビ番組「CSI:科学特捜班」も人気のようですね。「日本法医学会」もご参考に。
人間の死体と豚が似ているとの記述に、あることを思い出した。 確か、化粧品の実験には人間の肌と似ている豚が使われるとのこと。 豚と言われると嫌がる女性のために豚が貢献していることに、ある種の感銘を受けた。
嵯峨野 嵐山さん、ありがとうございます。なるほど、肌も。おもしろいですね。
献体をした場合、腐敗過程のテストに使われるのはいやなので、利用制限をすることができるのでしょうか?
教えてください。
「死体農場」は、TVのCBSドキュメントで見ました。記者が農場に入って、バス教授にインタビューしてました。確かに実物でやった方が正確なデータを得られるんでしょうけど、そこまで割り切れるアメリカ人て、すごいと思います。
岡村さん、献体する場合、献体先が指定できますので、献体先での利用方法を検討することが可能であるようです。「日本篤志献体協会」なんてのもありますので、ご参考に。