その昔、ヒトは全身に毛をまとっていた。二足歩行をするようになって行動半径が広がったヒトは、脳が加熱するのを防ぐため、皮膚を覆う体毛を減らして体を冷やした。ところが皮膚を露出すると、紫外線が直接あたり皮膚ガンが誘発される。そこでUVカット機能を持つメラニン色素を蓄え、紫外線を防ぐようになった。ヒトの肌色が黒くなったのはこれが理由と、これまで考えられてきた。
しかし皮膚ガンになるのは生殖年齢を過ぎてからが多い。それが進化の淘汰圧になるのかという疑問が残る。そこでカリフォルニア科学アカデミーのジャブロンスキー博士らが提唱したのが、体内の葉酸塩を紫外線による破壊から防ぐためという仮説。葉酸は細胞の分化に関わる、妊娠や胎児の発達に不可欠の栄養素だ。赤道近くの厳しい紫外線の中で暮らした初期の人類は、肌色を濃くすることで子育てを有利にはこんだ。
その後ヒトは赤道近辺から離れ、北方へ進出する。そうなると、濃い肌色のままでは紫外線をカットしすぎる。紫外線には悪影響が多いが、皮膚内でビタミンDの合成を誘発する有益なはたらきがある。ビタミンDは腸からのカルシウム吸収を促すので、母体と胎児の骨に必要。そこでヨーロッパ人などは、メラニン色素を減らし白い肌になった。
ちなみに、一般に男性より女性の肌の方が白いのは、男性が色白の女性を好んできたというのも原因のひとつかもしれないが、妊娠・授乳中に多くのカルシウムを必要とするため、ビタミンDを男性より多く合成させる必要があったからでは、ともいわれている。
お気づきのように、アフリカから発生した人類は、もともとみんな黒い肌をしていた。それが地域ごとの太陽光に合わせて適度な色合いに「脱色」した結果が、白や黄色といった皮膚の色。それをふまえると、現時点の肌色で人を差別するなんて、自らの歴史を否定するようで、ひどくむなしい。
Nina Jablonski博士らの研究については「Only Skin Deep?」からどうぞ。「Why Skin Comes in Colors」や「The Biology of Skin Color」など。National Geographic誌の「A New Light on Skin Color」など、各所で話題になりました。葉酸については、国立健康・栄養研究所の「葉酸情報のページ」をご参考にしてください。