蚊について書いたところ、西ナイルウィルスが心配ですねと投稿をいただいた。米国で社会問題になっているとも聞く。ちなみに米国が蚊による伝染病の危機にさらされたのはこれが初めてではない。かつて黄熱病に襲われた時の記録は、いまも公衆衛生上の大事件として残る。1793年、フィラデルフィア。夏の間に猛威を振るった流行病は、5万5000人の住人のうちおよそ5500人の命を奪う。じつに10人に1人。
当時は黄熱病を伝染させるのが何か、わからなかった。蚊は一生に一回しか人を刺さないと信じられていた。蚊が病気を媒介するという説を唱えたベネズエラの研究者が狂人扱いまでされているほど。
蚊と病気のつながりを最初に発見したのは、象皮病を追っていた英国のパトリック・マンソン。1875年に死体からフィラリアを発見、さらにフィラリアを血中に持つ庭師に蚊のいる部屋で眠らせ、彼の血を吸った蚊の中からフィラリアを発見する。もっとも彼も蚊は二度も人を刺さないという常識にとらわれていたため、蚊の死骸が飲み水に落ちるなどして感染するのだろうと結論付ける。
その後蚊と感染症の関係はマラリアの研究で進展を見せる。1880年、フランスの軍医ラブランがマラリア原虫を発見。1897年に英国のロナルド・ロスが蚊がマラリアの運びやであることを発見する。ちなみに当時はといえば、ノーベルが1896年に死亡、史上最高額の賞金のついた賞を創設すると彼の財団が発表した時期。誰が発見者かをめぐって確執があった様子。先陣争いならともかく、愛憎うずまく人間模様。最終的に第2回の医学・生理学賞をロスが単独受賞しているが、もともとは共同受賞者の名があったともいう。
蚊と人類の長い闘い。その裏では人間同士もけっきょくは争っていて、なんだかちょっと哀しくもなった。
参考書として『蚊はなぜ人の血が好きなのか』を利用しました。蚊については前回のコラム「蚊と注射針」とそれに関連しての投票「あなたは蚊に刺されやすいタイプ?」もどうぞ。また、マラリアについては「マラリアについて」「マラリア (malaria)」などを。切手で追う「マラリアの研究者達」という視点もどうぞ。
今日の記事と関係がないことで恐縮ですが、いまアフリカは干ばつのため食糧危機にあります。それで考えるのですが、かつて日本でも雨乞いをし、雨を降らせる研究もなされました。いま、雨を降らせる研究、技術のレベル、実態はどういう状況にあるのでしょうか。小橋先生の広汎な知識の一端をお教えいただくことができれば、まことにさいわいです。アフリカで少しでも人工的に雨を降らせたいと願っています。
(なお、現在私はボツワナに住んでいます。)
荻野さん、ボツワナからありがとうございます。
先生は必要ないですよ、どうぞお気軽に。降雨研究ですね。そういえば最近はあまり耳にしません(緑化についてはときどき見かけるものの)けれども、心に留めておきます。