創刊号の復刻版につられて購入した現代用語辞典。1948年版というから、戦後3年目。内閣用紙割当の都合で語数を減らしたとある。時代の空気を想像しつつページを繰る。と、政治用語の解説に「複雑怪奇、臣道実践、承諾必謹などという政府の造語は」とあって手を止めた。複雑怪奇が政府の造語とは。
調べてみると、なるほど、1939年に組閣された平沼騏一郎内閣が、独ソ不可侵条約の締結を受けて「欧州情勢は複雑怪奇」と声明を出して辞職している。当時の流行語というから、吉田茂の「バカヤロー」並みか。知っておくべきだった。
さらに復刻版を眺めていくと、1946年にチャーチルが使って広まった「鉄のカーテン」という言葉もはや収められている。冷戦時代を象徴するこの言葉、ぼくが10代の頃まではナマの手触り感があったけれど、いまでは死語になったと感慨にふける。
野球用語では「リード・オフ・マン」が項目にあげられており、説明文に「トップ・バッターともいう」とある。その後はむしろトップ・バッターが一般的に知られ、リード・オフ・マンは、イチローが大リーグに挑戦してあらためて日本に定着した気もするのだが。
Planetを東京大学系では「惑星」、京都大学系で「遊星」と呼ぶともある。いま一般には惑星の方が使われるが、これはその後の研究の流れと関係があるのかどうか。
そういえば明治時代はじめの学生は「自由」「義務」なんて新漢語をかっこよさげに使っていたそうだし、いまではIT革命などと普通に使われる「革命」も、時代によっては生臭いイメージがあったろう。言葉は時代とともにあり、日々新しい。新聞だけでも毎日10前後の新語が見つかるというから、若者だけではない、大人だって新しい言葉を利用したがるわけだ。
言葉は、概念や認識とともにある。言葉の乱れを嘆くのも無益ではないけれど、怖いのは、言葉を否定することで、その言葉で伝えようとする思いまで封じることなんだろうな。
まずは『現代用語の基礎知識』を。コラムで触れた創刊号復刻版のほか、風俗・芸能グラフィティも、ものを書く上で便利です。以前のコラムとは「いましか、言えない」。複雑怪奇は「20世紀 ことばの記憶」も参考に。新語というと若者言葉を連想しますが、若者言葉については「甲南大学 都染研究室 キャンパスことば分室」「けとば珍聞」「サブカルチャー言語学」などをどうぞ。また、「国内言語学関連研究機関WWWページリスト」が定番です。
惑星と遊星が同じものだと知りました。
興味が湧いたのでネットで調べたところ、
こんなサイトを見つけました。
赤い惑星・火星
惑星と遊星はどう違う? http://www.geocities.co.jp/Athlete/2383/hanasi/yuusei.html
いしはらさん、ありがとうございます。じっくり読んでしましました。