龍安寺の石庭が人の心をひきつける秘密は「木」にあるという研究発表を、興味深く読む。石庭を見るとき、人は脳裏に石の間を縫うようにして伸びる木の枝を思い描いているのだという。左右対称に伸びた枝は、もっともよい鑑賞位置とされている箇所で一本の幹になる。
研究チームの一員、京都大学の江島義道教授によると、落ち着く空間には5つの法則があるという。「対称性」「距離感」「動き」「バランス」「子ども時代の慣れ」だ。こたつに入ると落ち着くのは、まさにこれかなと連想する。部屋の中央に置かれるから対称性を実感するし、立ったときより天井や壁との距離感が出る。寒い日常から座ってぬくもるわけだから生活のバランスがとれるし、子ども時代の郷愁もある。動きはないけれど、たいていは別の辺に誰かが入っていて、みかんを食べたり縫い物をしたりして、動いている。
フィボナッチ数列というのがある。1、1、2、3、5、8、13、21、34と続く。5と8を足して13というように、隣り合う数字を足して次にくる数字を作る。数学の時間に松ぼっくりのかさを数えたりしただろうか。右回りに8個ずつ、左回りに5個ずつのらせん状に組み合わさっている。花の花弁の数、ひまわりの種のつき方、巻貝のまき方など、フィボナッチ数列は自然界にしばしば見られる。
さて、フィボナッチ数列といえば黄金分割。数列の隣り合う数字を割り算する。13を8で割ると1.625、21を13で割ると1.615。どこをとっても似たような数字になる。すなわちこれ、黄金比。比率が1対1.618になっている長方形はもっとも調和がとれているとされ、ミロのヴィーナスをはじめ芸術品にも見られると言われる。黄金分割は、自然の中にフィボナッチ数列として隠れているともいえる。
石庭に木を幻視し、美術品に自然を見る。それらが癒しを与えてくれるとするならば、きっとぼくたちの根っこがどこにあるのかを教えてくれているのだろう。
「江島教授」らの研究は「Nature 419 359」に発表されています。自然界に見られるフィボナッチ数列については「枝分かれはフィボナッチ数列」「生き物と数」「芸術・自然と数学の融合」などで事例をどうぞ。黄金分割の事例については「形・・・比例」などで、「展翅と黄金分割」もおもしろいですね。
庭園が好きなので今回のコラム楽しく読ませて頂きました。5つの法則、「対称性」「距離感」「動き」「バランス」「子ども時代の慣れ」は興味深い理論ですね。ただ、石庭はどうも、対象性には欠けてるような気がします。距離感も個々違いそうだし・・絶対美?の追求は興味深いです。
さくらさん、ありがとうございます。
>石庭はどうも、対象性には欠けてるような気がします
そこが、今回の研究のポイントなのです。一見無法則に見える石の配置を、大きさも考慮しつつ解析したところ、石の間を縫うように、右に2分かれ、左に2分かれと対称的に枝を伸ばす木が描かれるというわけで。そうした対称性のある木を描くことで、石庭に落ち着きを感じている、という発表でした。
落ち着く空間の法則の中に「子ども時代の慣れ」という言葉が出てきて、なんとなくほっとしました。目が、耳が、体が覚えているのでしょうね。私も時々子ども時代の頃に思いをはせる時があります。決まって出てくるのは、家の庭の石や木々たちです。そして、そこで起こった様々なシーン。きっと私の根っこは自然・家族・地域を含めた生まれ育った環境なのでしょう。でも、それが癒しのひとつになるなんて、今まで気づきませんでした。今日のコラムはとても興味が惹かれました。自分を考える時間を与えてもらって、得した気分です。
いつも素晴らしいコラム、楽しみに読ませて頂いております。
フィボナッチ数列、無味乾燥な数字の世界と思っておりましたが、黄金分割と関係あるのですね。
私はどうもワイドTVの画面の縦横比が馴染めないのですが、これに関係あるのでしょうか。
それと、最近フィボナッチ数列が証券業界で使われているようです。なんでも株価の戻り率と関係があるようですが、これまた超非情な世界が、数列と関係があるのでしょうか。
ご教授願えれば幸甚です。