小橋 昭彦 2002年1月13日

 少年時代に読んだ学習雑誌の「きみたちの同級生は170万人以上いる」という見出しがいまだに忘れられない。人数そのものはうろ覚えだが、1965年生まれだからほぼそんなものだ。子ども心には「とにかくいっぱい」くらいの意味しかなさない数字だった。
 マダガスカルにオオハシモズという鳥がいる。くちばしの形などでハシナガオオハシモズ、カギハシオオハシモズ、ヘルメットオオハシモズなど14種に分類されている。見た目だけでは同じオオハシモズ科とは信じられないほどに違っている。
 それでも、これらは300万年ほど前、共通の祖先から分かれたことがわかっている。鳥の種類が多くなかったので、環境に応じてからだのつくりを変えてすみ分ける適応拡散をとげてきたのだ。DNA解析も利用しつつ、京都大学の山岸哲教授らがその過程を明らかにしてきた。
 たとえば日本でいえばシジュウカラのように樹冠部でえさをつまみ捕りしていた種はニッパー型のくちばしに。日本のキツツキのように樹幹や枝でつつき捕りしていたハシナガオオハシモズはピンセットのような形のくちばしに。葉や小枝などでつまんだりつついたりしていたものはペンチ型のくちばしに。
 適応拡散をしてきた種には、ほかにガラパゴス諸島のダーウィンフィンチ類やハワイ諸島のハワイミツスイ類が知られている。場所やスタイルをすみわけ、みずからの形を変化させていく。オオハシモズ科の多彩なくちばしを見て、進化の柔軟さに驚いている。
 今年の新成人は152万人。ぼくたちは環境を自分たちに適応させようとしがちで、うまくいかなければ腹立たしく思ったりいらいらしたり。あるいは逆に自分たちで作った規範に自分をはめようとしたり。まあ、あせらない。152万通りのくちばしがあっていいはずだから。

4 thoughts on “適応拡散

  1. サケ、南半球では回帰しない(朝日12月13日)。1749年、忠臣蔵最古の浮世絵発見(朝日12月14日)。

  2. 「人間は、言葉と道具を使うことによって、身体的生理的に進化する必要のない(つまり道具や思考のほうを進化させることで自分自身は変わる必要のない)、唯一の生命体である」という文章を読んだことがあり、そういう見方もあるのかなあと思いました。

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