小橋 昭彦 2001年12月10日

 子どもの成長にあわせ、ボール遊びをよくした。最初は無難に風船から。ノモだササキだと親ばかをつぶやきつつ放りあげる。
 ノモ、ササキといえばフォークボール。ご存知の方もあるだろう、フォークボールは地球の重力に引かれて自由落下しているだけで、けっして魔法をかけて「落として」いるわけではない。その意味では、重力に逆らって落ちない直球こそ魔球なのだ。
 これはボールの回転が生む揚力による。投げるとき人差し指と中指にはじかれて逆回転のスピンがかかる直球は、空気をボールの下に巻き込み、揚力を得る。キャッチャーに届くまでにおおむね15回転くらいするという。回転が落ちると揚力が落ちるから、イニングが進んで腕が疲れてくると、スピードガンではかった球速は同じでも、「伸び」がない分、打者はうちやすくなる。
 フォークボールの回転数は204回転。これだとボールが進む後ろ側に圧力の弱い空気の渦ができて、ボールの速度を落とす。すると地球の重力の影響がボールに現れ、落下していく。フォークボールは地球が生み出した魔法だ。
 はじめて地球の魔法を使ったのは、1920年代にアメリカ大リーグで活躍したジョー・ブッシュ投手だといわれている。日本では、杉下茂投手。中腰にキャッチャーを立たせ、みけんを狙って投げるとホームペースの手前でワンバウンドする感覚というから、落差に驚く。
 宇宙飛行士の若田光一さんが、宇宙船内でキャッチボールするとつい高めに投げてしまうとコメントしていた。ぼくたちは、ふだん投げるとき、重力の影響を頭に入れている。しかし、予想以上に重力が影響すると、「落ちる魔球」に思える。地球と頭脳がやりとりする、その、微妙なあわい。
 父の手を離れた風船は、ふわふわ風に揺れながら、子どもの広げた手のほうに落ちていく。そんなとき、父親は地球の重力に感謝する。

3 thoughts on “落ちないフォーク

  1. フォークボールについては、「フォークボールの不思議?」がそのものをとりあげた論文。「フォークボールの流体力学と、打ちにくい理由」がコンパクトにまとまっています。「変化球の謎をスーパーコンピュータで斬る」も有益。「フォークボールの軌跡と速度変化」といった研究もあります。また「Sport Biomechanics」「スポーツの科学」「野球技術探求」も参考になります。

  2. ありがとうございます! そっち系の文章を、最近は増やしています。

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