小橋 昭彦 2000年12月29日

 道すがら「くさめくさめ」と繰り返す老尼がいたので何ごとかと問うと、「かくまじなはねば死ぬなりと申せば」と答える。徒然草に出てくる光景。とすると鎌倉時代にはすでにくしゃみをしたとき「くさめくさめ」と唱える風習が広まっていたわけだ。
 くしゃみの語源は、このまじない言葉「くさめ」にある。糞食め(くそはめ)の略とも休息万命(くそくまんみょう)の略とも言う。くしゃみそのもののことは「はなひる」と呼んでいた。
 くしゃみの際のまじないはほかの国でもよく見られるようで、古代ローマでも「Absitomen!(凶兆よ去れ)」と唱えたというし、アメリカ原住民にもあったという。イタリアの「サルーテ」や英語の「ブレス・ユー」なども同様の意図からだろう(日経12月6日)。そもそも「休息万命」じたい、もともとは長寿を意味する梵語で、あるとき釈迦がくしゃみをしたので弟子たちがいっせいに「クサンメ」と唱えたという話も伝わる。イスラム教においても、ムハンマドが説いた教徒6つの義務のうちのひとつは「相手がくしゃみをしたらその人のために神に救いを求めてやれ」だ。キリスト教に関する逸話では、西欧でのペスト流行時に、聖グレゴリウスがくしゃみの呪文を作ったともいう。くしゃみは宗教を問わない。
 そもそもくしゃみはせきと違って意識して起こすことができない。どこか遠いところからやってくるようでもあり、それが各種の俗信を生む背景ともなったのだろう。ちなみに俗信の中でも有名なひとつ、くしゃみをすると誰かがうわさをしているというのは『詩経』にも登場するというから、ずいぶん古い。
 この時期くしゃみをする人が多いけれど、うわさよりまずは風邪にご用心。はっくしょん。

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1 thought on “くしゃみ

  1. 沖縄では、昔から誰かがくしゃみをすると、そばの人は「くすくぇ0」と言います。
    「くす・くえ0」つまり、「くそくらえ(糞食らえ)」です。民話の中に起源があるみたいです。

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