ぼくたち人類が孤独な種であることは以前に書いた。
少なくとも4万年前まで、ぼくたちホモ・サピエンスのそばにはネアンデルタールという種がいた。ホモ・サピエンスとネアンデルタールは、どのように共存していたのだろう。
この10年ほどの間で、学説が大きく変わった。
これまでネアンデルタールとホモ・サピエンスの間にはそれほど交流が無かったと思われていたのが、実は混血していたということが明らかになってきたのだ。現代人のなかにも、ネアンデルタール人の遺伝子が2%強混じっている。
このほどスタンフォード大学の研究チームがあきらかにしたところでは、この遺伝子が、ぼくたちをヨーロッパやアジアでの感染性ウィルスから守るのに役立っているらしい。
ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより数十万年先立って、アフリカを出てヨーロッパやアジアに広まっている。その間に、こうした地域に独特のウィルスへの耐性を獲得した。そして現生人類がアフリカを出てヨーロッパやアジアに進出したとき、交配することで、その耐性を子孫に残したのだ。
ネアンデルタール人と現生人類が争ったという証拠は見つかっていない。
あるいはネアンデルタール人は、遅れて新大陸にやってきたきゃしゃな現生人類を、いつくしむように迎えたのかもしれない。そして時には交配し、結果として新大陸の病に対抗する力をぼくたちに与えてくれた。
確かなところは分からない。ただ、野蛮で粗雑といったネアンデルタール人のイメージを、ぼくたちは書き換える時期に来ている気がする。
そして彼らはぼくたちに生きる力を残し、地上から消えていった。
ありがとう、ネアンデルタール。
スタンフォード大学による最新の研究結果は、『Modern humans inherited viral defenses from Neanderthals, Stanford scientists find』をどうぞ。
ネアンデルタール人との混血はホットなテーマ。『我々はネアンデルタール人との混血だった 覆る進化の定説(日経サイエンス)』『4代前にネアンデルタール人の親、初期人類で判明(ナショナル・ジオグラフィック)』『ネアンデルタール人とヒトは10万年前にセックスしていた?(BBCニュース)』など。
また、その結果引き継いだものは、その他にもいろいろあったのかもしれません。『現人類、ネアンデルタールと交配で寒さ耐性獲得 研究(AFPニュース)』などご参考に。
ホモ・サピエンスの孤独については、『孤独なホモ・サピエンス』で書きました。『さよならネアンデルタール』もご参考に。これらを書いていた頃は、混血は無いとされていたのですよね。