宇宙飛行士の若田光一さんがスペースシャトル内でキャッチボールをした光景は覚えていらっしゃるだろうか。なにげないように見えて、脳と意識に関する深い事実が隠れているらしい。
1998年のスペースシャトルの飛行で、フランスとイタリアの研究者がキャッチボール実験をしている。1.6メートルの高さから速さを変えてボールを落とす。地上ではボールの到着と筋肉の動きのタイミングが合っているのに、飛行3日目の実験ではわずかに筋肉の動きが早い。重力によって加速されることを前提に動かしてしまったからと考えられている。脳は、無意識に重力の影響を計算しているわけだ。若田さんのことばにも、まっすぐ投げようとすると無重力空間では上のほうに投げてしまうとあった。ぼくたちも、ふだんは重力の影響を考えて投げている。
このところの脳研究の結果、色や形から見ているものが「何か」を知る信号と、位置や動きから「どこか」を知る信号は脳内で別の経路をたどることもわかっている。
幼いうちに失明したのち、長じてから「開眼」手術を受けた人は、遠くのものが小さく見えること、立体が見る方向によって違う形に見えることに驚きを覚えるという。「何か」と「どこか」という情報が統合されないからだろう。コーヒーカップが上から見ると丸いのに、斜めから見ると楕円であることの不思議。
考えてみれば、見るものはそのままにしてある、と信じていることのほうが不思議なことかもしれない。視覚だけに頼らないこともたいせつか。拙著『最新雑学の本』も、音訳を進めていただいています。
最近の書籍では、野村進著『脳を知りたい!』がとてもわかりやすくまとめられた一冊でした。また、岩波の認知科学の新展開シリーズ『認知発達と進化』『コミュニケーションと思考』もおすすめ。その他この分野はいろいろおもしろい本があるのですが、またの機会に。
日本語を使う日本人の場合、脳の二ヶ所を使って文を読んでいる、と養老孟司氏の本で知りました。かなはアルファベットを読むのと同じ大脳皮質の部位で、漢字はそれとは別の部位で読んでいる、とのこと。
・・・ちょっと、偉くなった気分。
参考:『臨床読書日記』文春文庫 養老孟司著