ふと思い立って三十三間堂へ出かける。1001体の観音像との再会。ゆっくりと、その前を歩いていく。
中ほどに、上を見るように掲示がある。天井に、かつて堂内を彩っていた文様のあとが残っていると。堂内はいまでこそさびた風合いをかもしているけれど、華やかに彩られていたころもあったのだ。さぞかしこの世のものならぬ風景であったろうと想像する。とはいえ、当時のように修復することは許されまい。
美術品の修復は難しい。作家の望んだ形に戻すことは理想のように思えるけれど、ミロのヴィーナスの失われた腕が出てきたといって、それを「修復」することはきっとだれも望まない。教科書で見なれていたくすんだ名画が、修復によって鮮やかな色あいをとり戻しはっとすることもあるけれど、おそらくそのあたりがぎりぎりのところか。
美術品・芸術品の大敵には、劣化のほか、害虫もいる。博物館の被害の筆頭は、ゴキブリだそうだ。ゴキブリのやつ、台所で安住しているかと思ったが、あんがい目が高い。博物館内のレストランなどから忍び込み、古書などの糊の部分を食べる。
人は、風化に価値を感じることができる。三十三間堂の観音像のなかには、どれか一体、自分の会いたいと思っている人の面影が宿っているという。ちょっとしたくすみを、いとしい人のほくろに重ねたりもするのだろうか。それもまた、すてきだ。
子どもにせがまれ、家族で献灯する。手を合わせ、目を上げると観音像の顔、顔、顔。穏やかな顔、ひきしまった顔、ほほえんだ顔。たしかに、さまざまな表情を持っている。ただ、そこにだれかの面影を探すことはしない。会いたい人は、いま側にいるから。
美術品の修復と保存について、「岡崎絵画修復工房」の情報が参考になります。
今日の没ネタ。カレーが日本に入ってきたのは1870年代、英国から(朝日6月19日)。白髪対策は抜け毛と同じ(朝日6月18日)。
こんにちは。メルマガ最近購読を始めました。
毎日楽しく拝見させて頂いております。
色んな内容があって面白いですね。
時間があったら自分も挑戦してみたいです(^^;
ふるびるは「古美る」とも書くという人もいて、
風化に価値を感じる伝統が日本にもあったといいます。
西洋でも廃墟が流行った時代もありました。
時間を経ないと得られない美をちゃんと認識できるのに、
どうして人体に関しては(とくに女性に対しては)
時間を経ると美的価値が下がる一方なのでしょう?
パリのようにある年齢以上にならないと評価されない文化もあるのに、
日本では若さばかり・・・
美術品の「よい風化」には使用は保管のときの条件が大事ですが、
女の「よい加齢」だって周り(特に男)の評価が大事。
こまさん、「古美る」。いいことばですね。
> 女の「よい加齢」だって周り(特に男)の評価が大事。
おお、するどい。
夜助さん、メールマガジン発行、いいものですよぉ。
いつも楽しく読ませていただいております。
はたまた、同僚と会話するときの「ネタ」にさせていただいてます。
編集長様はどうやら年代が近いのか、「ん0そうだった」
という事がしばしば・・・
今後もよろしくお願いいたします。
(なんかかたっ苦しくなってしまった。)
いつも、楽しく読ませて頂いています。
遼太朗くんのかわいいエピソードも楽しみです。
コラム最後の「会いたい人は、いま側にいるから。」
の部分に感動しました(*^^*)
素敵ですね。
> 会いたい人は、いま側にいるから。
ありがとうございます。家族も読んでるんで、ま、家族サービスです。とか言ってみる。