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怪しい科学の見抜きかた―嘘か本当か気になって仕方ない8つの仮説

2008年5月09日 【雑学な本棚
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 まずは副題にある8つの仮説を並べておこう。
 ゲイは遺伝である
 世界は神が設計した(インテリジェント・デザイン説)
 人間は昔よりバカになっている
 念力で物を動かせる
 地球温暖化は心配することない
 宇宙に複雑な生物はいない
 偽薬でも病気は治る
 コレステロールを気にする必要はない
 嘘か本当か気になって仕方ないかどうか、これは人によるだろう。少なくとも日本人にとって、最初の二つはあまり気にならないのではないか。
 ことに2番目の仮説は、アメリカではこれがマジメに論争になっていて、教育現場でも激論が交わされ、ひょっとすると(皮肉にも)科学に対する関心を高めるきっかけにもなっているようなのだけれど、日本では進化論を疑う人はあまりいないだろう。
 これら8つの仮説について、ロバート・アーリックは0から4までの「インチキ度」をつけている。0だとインチキじゃない。4はまったく疑わしい。
 再掲しよう。
 ゲイは遺伝:(同性愛は生得的であることについては)0
 ID説:3
 バカになっている:2(賢くなっているについては1)
 念力:4
 地球温暖化:1
 宇宙人不在:2
 偽薬:0
 コレステロール:2
 それぞれの詳細な解説は本書を楽しんでいただきたい。
 少しだけ、注意点を。
 今話題になっている地球温暖化を心配することはないという結論にインチキ度1とある。しかしこれは、地球温暖化が起こっていないということではない。
 温暖化が進んでも、先進国にとっては利点となるという観点がひとつと、それでも不利な点があるなら、今からコストをかけるより、それが明らかになってからでも間にあうという立論に納得性がたかいことから、心配することはないという説にアーリックはポイントを与えている。
 これが、本書の基本姿勢だ。
 アーリックは、総論ではなく、その説の立脚しているデータに基づき、正しく科学的な視点で立論されているかを重視しているのだ。
 だから、ある仮説の立論が疑わしいことが、そのまま対立する仮説の証明にはならない。「賢くなっている」「バカになっている」どちらもそれなりにインチキ度が低いように。
 語り口はある程度専門的であり、タイトルほど軽く読める本ではない。
 しかしその分、読者は、科学的立場というものがどれほど厳密であるべきなのか、本書から学び取ることができるだろう。

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Your Comment:

 なんて印象的なプロローグだろう。
 ニューメキシコ上空、3万1000キロメートル、1960年8月16日。与圧服に穴があけば、たちまち血液が沸騰してしまう、薄い空気の中。
 ジョセフ・キッティンガーは、この危険に満ちた領域に一人浮かんでいた。
 もっとも、彼の上空約80キロメートルのところには電離層があって、彼を致死的なX線から守ってくれている。さらに上空には、何万キロメートルという距離まで地球の磁場が及んでいて、吹き荒れる太陽風から守ってくれている(ちなみに、スペースシャトルの高度はおおむね300キロメートル台だから、かつて人類で、地球の磁場の外に出たのは、アポロで月に向った宇宙飛行士だけだ)。
 さて、キッティンガーは旅を=自由落下を=始めた。
 高度1万8000キロメートルまで落ちたあたりで、気圧は服に穴があいてもいいレベルまで上がる。気温はマイナス70度以下。高度1万メートル。エベレストの高さ。
 けっきょく、ぼくたちが「大気」として実感できるのは、ここから下に過ぎない。雲に入り、パラシュートが開く。
 13分45秒後、キッティンガーは地上に降り立つ。
 ウォーカーが描くのは、キッティンガーが「旅」したこの空間についてだ。ふだんは気にとめない、大気という空間。
 空気の重さを量ろうとした人々の挑戦を、ウォーカーはガリレオから書き起こす。
 大気が、酸素や炭素といったさまざまな要素から構成されていることを発見した科学者たちの姿を活写する。
 貿易風や偏西風の発見をコロンブスから語り起こし、その原理の発見(フェレル効果=コリオリと一般に呼ばれているが、実際に貢献したのはフェレル=や、ハドレー循環)について述べる。
 ここまでが第一部で、いわばこれが副題にある「なぜ風は吹き」に対する回答だ。
 第二部では、「なぜ生命が地球に満ちたのか」に関する回答が示される。
 モリーナとローランドによるフロンによるオゾン層破壊の発見(と社会的な無視)、マルコーニの無線と電磁波、そして宇宙への道にあるヴァン・アレン帯の発見。
 それはなんて魅力的な語り口だろう。
 ぼくたちはふだん、大気の存在について意識することは少ない。しかし、そのなかに、これほど多様な視点があり、これほど生き生きとした人々の挑戦があったとは。
 ウォーカーは、これら「大気」に関する物語を、ひとりひとりの科学者に密着し、まるでその時代に生きて見てきたかのように物語る。
 その語り口に、ぼくは魅入られ、読み進めていった。
 それはどこか、風の音を聞きながら走り抜ける経験に似ていた。
 あるいは、30キロメートルを自由落下した、キッティンガーの経験に。
 あなたもぜひ、この自由落下を味わってほしい。

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 多様。日本特殊論を唱えたいわけではないが、DNAからみたとき、日本は、出アフリカの3系統の末裔すべてが見られる、世界的にも珍しいところなのだという。
 DNAによる系統分析には、母方からのミトコンドリアDNAによるものと、父方からのY染色体DNAによるものがある。
 現生人類は、ミトコンドリアDNA分析からは20万年から14万年前、Y染色体DNA分析からは9万年ほど前に生まれたと推定されている。
 本書で崎谷さんが描くのは、このうちY染色体DNAに基づく、現生人類9万年のストーリーだ。
 Y染色体は、現在AからRまでの亜系に分類されている。このうちA及びBはアフリカ固有のタイプだ。出アフリカに関連するのはC以降の亜系だが、このうちCが第1グループ、DEが第2グループ、FRが第3グループになる(第3グループは分類が多様だ)。
 日本には、このなかで第1グループであるCの系統と、第2グループに属するDの系統、さらに第3グループからNとOの系統が現存する。
 おもしろいのは、それぞれの分布に地域的な差がみられることだ。
 多くの地域で見られるのがD系統で、これは新石器時代の縄文系ヒト集団に由来する系統と考えられている。新潟で48%、東京で40%、九州で26%などの頻度。北に多く、琉球では見られないがアイヌでは高頻度で見られる。
 ちなみに、これだけD系統がまとまっているのは、世界でも日本とチベットだけだという。
 C系統は、シベリアに高頻度に見られる。この系統はその後、ベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に移っていったと思われるが、一方で、後期旧石器時代にC3系統が日本に渡り、現在も九州で8%、徳島で3%くらいみられる。
 またC1系統は南方から日本に入ったらしく、九州南部を中心に4%、徳島10%、青森8%など、太平洋岸で認められる。
 N系統はシベリア北西部と北欧に多く見られ、新石器時代のヒトの移動を示していると考えられる。九州4%、青森8%などみられるが、アイヌや琉球では見られない。
 O系統は琉球で主要な系統だが、弥生時代以降に日本に流入したものと思われ、日本以外では朝鮮半島に多い。日本でも30%前後みられる。南に多く見られるのが特徴だ。
 ユーラシア大陸の混乱で難民化したO系統の人たちが、少人数ずつ日本に渡り、縄文人らに金属器や稲作をもたらしながら、共存してきたらしい。
 つまるところ、出アフリカの3グループが、極東の地で再会し、現在まで暮らしている、それが日本なのだ。
 そう考えると、多様さを受け入れた地としての、世界に開かれることの必要性を思う。日本ではあとから来た系統が先に居た系統を追いやったり滅ぼしたりといった歴史をたどったわけではなかったらしいのだ。
 実は、ここまでで本書のうちの第1章の概要を述べたに過ぎない。
 副題にあるように、この後崎谷さんは言語や文化などについても触れ、日本の多様性を解き明かしていく。
 その向こうに現れてくるのは、日本人とひとくくりにして愛国心を語ることの小ささとでもいおうか。日本を閉じて語る愛国心はカタグルシイけれど、長い歴史と多様性を受け入れてきた事実を背景に見る日本には、むしろ開かれた愛国心とでもいおうか、風通しの良い安らぎを感じる。
 本書は科学書のようでいて、すぐれた日本論、日本人論にもなっている。

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