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暗号

2005年6月09日 【コラム
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 ヴォイニッチ手稿という文書がある。1912年に発見された、奇妙な文字で書かれた中世の文書。暗号だと言われ、第二次世界大戦で日本海軍の暗号を破った米軍の暗号解析者たちが手遊びに解読に挑戦するなどしてきたけれど、いまだ誰も成功していない。
 単なるでたらめかもしれない。最近の研究で、中世のカルダーノ・グリルという道具を使えば、似たような文書を作れることがわかった。穴の開いたカードを文書にかぶせ、窓から見える文字をつなげる。あるいはそのようにして詐欺師が王朝からお金を巻き上げるために偽造したのだったか。
 もう少し新しいところではビール暗号。こちらは1820年頃にヴァージニア州のホテルに宿泊した旅人が残したもので、3枚あって数字がびっしり書き込まれている。自分が隠した黄金について、1枚目に隠し場所、2枚目に宝の内容、3枚目に相続者の名前を記したという。2枚目についてはアメリカの独立宣言を鍵に解けることが発見され、その結果を含めて小冊子として公表された。信憑性は高いのではないかと、今も挑戦が続く。
 古代エジプトのヒエログリフにもあったというから、暗号の歴史は長い。別の文字に置き換える方式がずっと用いられていたが、文字の出現頻度を分析すれば解読できることが発見され、信頼が揺らいだ。ポーやホームズの作品にも登場する手法だ。その後新しい手法が生まれ、バベッジやチューリングといったコンピュータの歴史でもなじみの名前が解析者として登場し、公開鍵という画期的な一歩があり、最近では量子暗号の開発が続く。
 ルイ14世の大暗号を200年の時を経て解いたバズリーは、頻出する文字の並びが「敵」を意味するのではないかと気付いたことがきっかけになったという。そんなちょっとした着想がヒントになる可能性。ハイテク暗号の時代にヴォイニッチ手稿やビール暗号に惹かれるのは、そんな魅力ゆえだろうか。

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2 comments to...
“暗号”
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小橋昭彦

ヴォイニッチ手稿については「The Most Mysterious Manuscript in the World」が日本語で、かつ情報豊富です。「Voynich Manuscript」で画像など。wikipediaの「Voynich manuscript」及びそこからのリンクもご参考に。

文中で触れた最近の研究というのは「Gordon Rugg」によるもので、「The Voynich Manuscript: An Elegant Hoax?(Cryptologia Vol. 28 No. 1; January 2004)」です。カルダーノ・グリルについては「Scientific Method Man」の記事から左のリンクをたどれば、手法の画像説明があります。

ビール暗号については「The Beale Cryptograms」などをどうぞ。

暗号一般については『暗号解読』が、ときおりミステリーのようなおもしろさもあってお薦めです。オンラインでは「暗号の歴史」をどうぞ。


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キャプテン・ピッピ

ワタシはヴォイニッチ手稿を知ったのはつい最近なんですが、
ファンタジーっぽい雰囲気にすごく心惹かれてしまいました。
なんとなく宮崎駿を感じさせる細かくて綺麗な絵も魅力です。




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 できるだけ使わないようにしている、と知人の社会学者が言っていた。それほど便利でなんだか納得した気になってしまうからと。ミームという言葉は、リチャード・ドーキンスが『利己的な遺伝子』で提唱した用語で、生命のように文化も進化しているとするなら、遺伝子にあたるものがあってもいいとして、それをミームと名づけた。 遺伝というからには、3つの条件を備えていなければならない。第一に、変異によって多様性が生まれること。第二に、それらすべてが生き延びることはできず、選択(淘汰)されること。第三に、それが伝達される過程が存在すること。そう考えるなら、なるほど文化も遺伝する。つねに新しい発想が生まれ、それらの中には広がるものも忘れ去られるものもあり、人から人へ、あるいは書物などを介して模倣され伝わっていく。 生物学で「互酬的利他行動」を唱えたのはトリヴァースだった。他者のために犠牲を払っても、最終的に自分のためになるという理論。親は子に尽くすことで、自分の遺伝子を残す可能性を高めているといった見方ができる。もちろん個々人はそんな打算で行動しているわけじゃないのだけれど、利己的遺伝子の視点で説明するならそう表現できる。 同じことはミームにも言えて、ぼくはときどき便利に使う。ボランティアするのはミームを残すためと考えたり。誰かに助けられたら、その人の話を聞いてみようって気にもなるだろう。人助けをすることで、自分の持つミームを伝える可能性が高まるわけだ。もちろん、そんな説明はなんだか味気ない。味気ないけれど、そう考えておけば、これだけ尽くしているのだからなんて思いが芽生えることもない。むしろ、受け入れてくれたことに感謝する。まあ、要するに古くからあることわざを、ちょっと科学的に言い換えているだけのことなんだけどね。そう、「情けは人のためならず(自分のため)」って。

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 都道府県を組み合わせるパズルを子どもとしながら、なんとはなしにウェゲナーのことを思い出していたのだった。南アメリカとアフリカの海岸線が似ていることからかつてはくっついていたと考え、インドのゴンド民族の土地で発見した氷河によるこすり跡などをもとに論証した気象学者だ。およそ3億年前の、いわゆるゴンドワナ超大陸。 ウェゲナーは他にも古生物などの証拠を揃え、1912年に論文を発表している。ただ、それがすぐに認められたわけではなく、注目されるようになったのは、1950年代になって地磁気の研究が進んでから。岩石ができるとき、地磁気の強さと向きが痕跡として閉じ込められる。各地の痕跡を調べると、かつて同じ大陸だったものが移動したと考えるとつじつまがあう。その後、海底断層の研究などが積み重ねられ、プレート・テクトニクス理論として結晶する。地表はいくつかの移動するプレートから成るとする理論だ。 超大陸はゴンドワナだけではない。およそ27億年前に大陸が誕生して以来、19億年前の超大陸ヌーナをはじめ、2億3000万年前の超大陸パンゲアなど、何度かくっついたり離れたりしている。そのたびに生命は大きな影響を受けた。パンゲアとともにあった超海洋パンサラッサは、ひとつであったがゆえに生命の一様さにつながりその後の大量絶滅の要因となった、9000万年前のローラシア超大陸はしばしば浅い海で分断されたゆえに恐竜の多様性を生んだ、といった説もある。 プレート・テクトニクスを習ったときの驚きは以前も書いた。何億年も前に存在した超大陸が、氷河のこすり跡や磁気、巨大山脈の痕跡などを通して、現在のぼくたちに語りかける。プレート・テクトニクスは、地震や火山、山脈の形成などをすっきりと説明しつつ、生命の起源の場ともされる海底の熱水鉱床のように、新しい知の扉を開いてもくれる。プラトンが書き残したアトランティス伝説やムー大陸の謎も悪くないけれど、ぼくはこのリアルで壮大な物語に惹かれる。

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