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ちょっと知的な雑学&トリビア

5万年前の壁

2005年2月03日 【コラム
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 人類と文化の関係を考えるとき、転機となる4つの事件があったという。ひとつ目は約250万年前で、猿人から原人へ進化し、脳の大きさが2倍になったとき。人類は剥片石器を使うようになっている。遺伝子調査の結果からは、アゴの筋肉を作る働きが弱くなり、脳が大型化するのを可能にしたのではないかという説が出されている。
 二番目は約170万年前で、人間らしいプロポーションを獲得するとともに、ハンドアックスと呼ばれる洗練された石器を使うようになった。三番目は約60万年前で、脳容量が急速に拡大しはじめた時期だ。そして四番目が、5万年前。これ以降文化が爆発的に花開く。5万年前の壁とも、文化のビックバンとも呼ばれる事件だ。
 何が文化の曙を生んだのか。脳容量という点では、たとえばネアンデルタールの平均は現生人類より大きく、それが直接文化に結びついたのではない。書籍『5万年前に人類に何が起きたか?』では、遺伝子変異によって言語を操る能力を得たことが原因ではないかと推論している。芸術品に見られる抽象的思考には、言語が欠かせない。
 ただし、最近になって発見された遺跡は、5万年前の壁は無かったかもしれないことを示してもいる。たとえば南アフリカのブロンボス洞窟から発掘された、巻貝製のビーズの首飾り。およそ7万5000年前の芸術作品だ。これを作ったのがどんな種の人類だったか、まだわからない。しかしアフリカでは、ホモ・サピエンス・イダルツと名づけられた、16万年前の人骨が見つかっている。ネアンデルタールと違う、現生人類に近い姿。その喉元や脳頭蓋の配置は、言葉を獲得していたとしてもおかしくないという。
 5万年前の壁はあったのか。それともぼくたちホモ・サピエンス・サピエンスは、20万年前からゆっくり文化を磨いていたのか。ともあれそこには、この言葉が少なからぬ役割を果たしている。

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7 comments to...
“5万年前の壁”
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小橋昭彦

参考書として『5万年前に人類に何が起きたか?』をどうぞ。ブロンボス洞窟のアクセサリーについては「Shell Beads from South African Cave Show Modern Human Behavior 75000 Years Ago」を。「言語の起源」でも言及されていますので、ご参考にどうぞ。

アゴと脳容量の関係については過去のコラム「あごから進化 [2004.04.01]」で紹介していますので、ご参考にどうぞ。イダルツについては、とりあえずは「16万年前の頭骨化石は現代人の起原を証明するか」が手頃。


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得津富男

小橋様へ今回も面白い話題ですね私は前に書いたようにプラスチック素材メーカーでしばらく高分子化学の新素材・企画開の仕事をしておりまして視点が少し違うのいで余計に楽しいと言う次第です私の会社での開発の視点は「オパーリンの化学進化」(無機化に有機へ)説から説明して「微生物0類人猿まではダーウィンの生物進化」説で説明し、「人間の高次脳進化」はベイトソン・ヴァレラ・マラトーナの神経生物学の「神経細胞進化説」のポストモダンまたはオートポイエーシス論でで説明し、さらに高次の領域は私の博士号(未完)の研究では認知神経心理学のモデル論でプラスチックの自己修復モデルを使って説明しようとしておりました。※過去形ではなく現在進行形ですが…、私の人間の神経生理学モデルを「無機物の研究」に限定して大学を変えて行う計画です。宜しく


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ななし

五万年前の壁については、正直よくわかりません。

もしかすると、人類の定義にも関わる根源な事かもしれませんし、5万年前の壁など存在せず、ネアンデルタール人も同様に高度な文化を持っていたのかも知れません。

「ネアンデルタール人は、声帯の位置と気道の長さの違いから現代人の様な発声は難しく、高度な会話能力は持っていなかった」という説もありますが、この様な形質は寒冷地に対応する為に後から獲得した物という説もあり、寒冷地に対応する前に高度な会話能力を取得していた可能性もあります。

5万年より後(?)の文化(文明・技術)の発展に関して、この本に面白い事が書かれていますので、機会がありましたら眺めてみてください。^^

銃・病原菌・鉄
一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎
ジャレッド・ダイアモンド/倉骨彰
草思社 ISBN:479421006X \1995(税込)


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ななし

言葉に関して議論するなら、多方面から検討する必要があると思います。

下でご紹介する本は、洋鵡(ヨウム)を使った言語コミュニケーションに関する研究に関する物です。

アレックス・スタディ
?オウムは人間の言葉を理解するか

共立出版 (2003-02-01出版)
Pepperberg Irene Maxine【著】
渡辺 茂・山崎 由美子・遠藤 清香【訳】
販売価:”\7350(税込)(本体価:”\7000)

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9976619146


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小橋昭彦

ありがとうございます。確かに、言葉をテーマにしようとするととても広くなりますね。NHKスペシャル『地球大進化』では第二の遺伝子という位置づけで、これもおもしろい視点だと思いました。

http://www.nhk.or.jp/daishinka/program06.html

ミームって考え方も思い出します。言葉と文化については、サピア=ウォーフ仮説など、そのうち紹介したいと思いつつ、手がつけられていません。

ななしさん、ジャレド・ダイアモンド、面白い著書ですよね。幅広いテーマで、ザツガク的にはなかなか正面から取り上げられていないのですが……。

得津さん、オートポイエーシス、ぼくも気になっている考え方です。今は主に地域メディアとの関連なのですが。。。


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しゃあ 

4つの転機には それぞれ進化を促す刺激があったんでしょうか?


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小橋昭彦

あ、そうか、しゃあさん、進化って、何かの刺激があって、それに対応しようとして起こったと考えない方が良いと思います。

突然変異で違うタイプの種が生まれ、それで長年の後、結果的にある特定の種が有利で生き残ったと。その結果が進化と考えた方がいいのではないでしょうか。




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Your Comment:

 土星の衛星タイタンから送られてきた画像に、なぜか懐かしさを感じていた。海のような暗い部分と、渓谷のような筋。零下200度の世界では、海があるとしても水ではなくメタンの海だろう。それでも違った形の生命が存在しないかと、夢を抱く。その夢を、土星探査機カッシーニが中継して、地球に送ってくれる。光速で80分。ブロードバンドとはいかない、ISDN並と考えておけばいいようだ。 幸い土星からの画像はくっきりしていたけれど、仮にこれが何光年も離れた地球外文明との交信なら、宇宙線や散乱の悪影響を受ける。エネルギー効率を考えるなら、瓶に手紙を入れて届けた方がいいらしい。この試算結果が掲載されている科学誌の表紙には、金盤の写真が載っている。外惑星探査機ボイジャーに積まれた、地球人からのメッセージを刻んだ円盤だ。今頃は太陽系の端を星の海原に向っている。原始的なようだけれど、その方法が案外正しかったのだと。 ちなみに、電波による地球外文明との交信を科学的に呼びかけたのは、物理学者ココーニとモリソンによる1959年の論文だ。それ以前は、たとえばエジソンの弟子、というよりエジソンに抗して交流を主張しライバルとなったニコラ・テスラなどが火星からの信号受信を模索してもいたが、まじめにはとりあげられなかった。 タイタンに降下する探査機が拾った音声を聞く。大気を切るような音に耳を澄ましつつ、それが異星をわたる風で、地表の草原をなびかせていたならと想像する。たとえそこに文明がなくとも、その光景にどんなに勇気付けられるだろう。いつかそんな光景に出会うことを、瓶に入れた手紙が地球の浜辺に流れ着くことを、夢見ている。 地球外文明との交信について、ココーニらの論文は、こんな言葉で結ばれている。成功の確率を見積もることは難しい、しかし探さなければそれはゼロなのだ、と。ゼロではない、夢を追うとはそういうことなんだな。

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 クジラの祖先パキケタスは、今から5000万年ほど前に登場している。狼のような姿で、クジラとは似つかない。それでも祖先と考えられるのは、耳の構造が似ているからだ。クジラは、下あごで水中の超音波を受け取り、耳骨に伝える。いわゆる骨伝導と考えればいい。これはクジラ類だけの特徴で、パキケタスも、同じ仕組みを持っている。 もっとも、パキケタスが生きていたのは陸上だ。地面に下あごをつけ、地中を伝わる音を聞いていたと考えられている。身を伏せた視線の先には、テチス海の輝きがあったろうか。当時、インド亜大陸はアジア大陸にぶつかる直前。両大陸の間に広がっていた雄大な浅瀬をこう呼んでいる。そこには栄養源となる生物が豊富に棲んでいただろう。それが、パキケタスを海へ誘った。 その100万年ほど後には、アンブロケタスというワニに似た姿に、そしてさらに200万年から300万年後にはロドケタスという、水棲適応したと考えられる種に進化している。この段階での体長は3メートルほどで、脚も残っていた。今で言えばアシカのように陸上にもあがったと考えられている。身体が流線型になりクジラに似てくるのは、体長18メートルあったというバシロサウルスから。ただ、バシロサウルスにも、小さな後肢が残っている。役立ちそうに思えないのだけれど、交尾のガイドにしていたらしい。 クジラの後肢は、2700万年前のヒゲクジラでも形跡が認められており、あんがい最近まで残っていた。そういう意味では進化とは一直線に進むものではないのだけれど、驚くのは、パキケタスから水棲に適応したロドケタスまで、わずか400万年ほどしかかかっていないということ。人類もまた、同じくらいの期間を経てきたわけだけれど、さて、それはクジラと比べて有益な数百万年だったかと振り返りもする。

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