小橋 昭彦 2005年2月10日

 クジラの祖先パキケタスは、今から5000万年ほど前に登場している。狼のような姿で、クジラとは似つかない。それでも祖先と考えられるのは、耳の構造が似ているからだ。クジラは、下あごで水中の超音波を受け取り、耳骨に伝える。いわゆる骨伝導と考えればいい。これはクジラ類だけの特徴で、パキケタスも、同じ仕組みを持っている。
 もっとも、パキケタスが生きていたのは陸上だ。地面に下あごをつけ、地中を伝わる音を聞いていたと考えられている。身を伏せた視線の先には、テチス海の輝きがあったろうか。当時、インド亜大陸はアジア大陸にぶつかる直前。両大陸の間に広がっていた雄大な浅瀬をこう呼んでいる。そこには栄養源となる生物が豊富に棲んでいただろう。それが、パキケタスを海へ誘った。
 その100万年ほど後には、アンブロケタスというワニに似た姿に、そしてさらに200万年から300万年後にはロドケタスという、水棲適応したと考えられる種に進化している。この段階での体長は3メートルほどで、脚も残っていた。今で言えばアシカのように陸上にもあがったと考えられている。身体が流線型になりクジラに似てくるのは、体長18メートルあったというバシロサウルスから。ただ、バシロサウルスにも、小さな後肢が残っている。役立ちそうに思えないのだけれど、交尾のガイドにしていたらしい。
 クジラの後肢は、2700万年前のヒゲクジラでも形跡が認められており、あんがい最近まで残っていた。そういう意味では進化とは一直線に進むものではないのだけれど、驚くのは、パキケタスから水棲に適応したロドケタスまで、わずか400万年ほどしかかかっていないということ。人類もまた、同じくらいの期間を経てきたわけだけれど、さて、それはクジラと比べて有益な数百万年だったかと振り返りもする。

5 thoughts on “クジラ、海へ

  1. 過去のコラム「クジラが歩いていたころ [2002.07.01]」もご参考にどうぞ。当時参考にした記事は「日経サイエンス」でしたが、「ニュートン」最新号でもとりあげられていました。

    今回のコラムの直接のきっかけは、書籍『水辺で起きた大進化』です。参考書としてどうぞ。水辺での進化といえば、クジラは陸上から水中ですが、逆の水中から陸上へという動きも、前適応とあわせて気になっているので、次回にでも取り上げさせていただきます。

  2. 今回のテーマは私の場合、企業での研究に引き寄せれば進化生物学の分野に分類でき、さらに私のわたしの専門分野では「分子発生生物学」ということが出来そうです。主に「血液に影響する分子振動」を研究し、振動に冠する「記憶能」をプラスチック樹脂に添加して最終製品にどの程度反映させるのことが可能なのかがテーマでした。素材、樹脂の研究という地味なセクションでしたがおなじように基礎研究をされている多くの研究者と知り合えたことが収穫でした。本年7/23に私が住む枚方市へ研究者の一人、九大から高尾征冶さんに講演にお越し願います、追って詳細お知らせします。

  3. >逆の水中から陸上へという動きも、前適応とあわせて気になっているので、次回にでも取り上げさせていただきます。
    って、哺乳類でしょうか?
    それとも一般的な魚→両生類かな?
    何れにしてもこの辺大好きです。
    楽しみにしてます!!

  4. (カバに近い動物ではなく)ラクダに近い動物からクジラは進化したと色々な本に書かれていた頃、尤もらしく「海は砂漠と同じ様な環境だから…」ウンヌンと説明されていた事を思い出しました。^^

    ちょっと話題が違いますが、クジラ繋がりという事で… m(_ _)m

    老化はなぜ起こるか?コウモリは老化が遅く、クジラはガンになりにくい
    スティーヴン・N. オースタッド (著) Steven N. Austad (原著) 吉田 利子 (翻訳)
    http://www.ttbooks.com/view1.cfm?bookID=112

    老化について「進化論で説明できるよ」という本です。
    サブタイトルの「クジラはガンになりにくい」というのは、

    クジラは人に比べ、ずっと大きい(細胞がずっと多い)。もしクジラの細胞が人間の細胞と同じ確率でガン細胞化するのなら、人間よりずっとガンになりやすいはず。でもそんなこと無い。って事は…

    って話です。

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