小橋 昭彦 2019年1月12日

ツァイガルニク効果という。人は、完了していない課題ほどよく覚えているという現象のこと。

もととなる実験がされたのは100年近く前だから、古典的理論だ。先に紹介した「不便益」の仲谷善雄教授は、これを最新の観光地アプリ研究で活かしている。「見逃して悔しい」と思ってもらう方がリピーターにつながると。

ビジネス現場では、「続きはウェブで」的なすべてを伝えない広告手法で応用されているし、じらす恋愛テクニックとして語られることも多い。教育で活かせないかという研究もされている。

100年近く古びなかったということは、再検証に耐えているということ。比較的新しいところでは、常磐大学の伊藤昌子教授による「の」の研究がおもしろい。
願いを伝える文、たとえば「里を訪ねたい」がある。この文末に「の」をつけて「里を訪ねたいの」とする。これだけで、思い出してもらえる確率が高まるのだ。
最後に「の」が入るだけで、単なる願望を伝えただけでなく、相手に何か求めるようなニュアンスが加わる。「里を訪ねたい」だけなら「ふーん」で終わるかもしれないところ、「里を訪ねたいの」と言われると「えっと、いつにしようか」なんて返さなきゃいけない気になる。
それが願望文への未完了感を生んで、記憶にとどまるのではないかと。

欠けた自分を探しに出る『ぼくを探しに』という絵本があった。考えてみれば人は、何かを満たそうという思いに突き動かされて、日々を送っているのかもしれない。
「の」に返答するような小さなステップでもいい。それを重ねることで、本年、少しでもあなたの未来が開かれていきますように。
未完了の明日に、おめでとう。

3 thoughts on “「の」とツァイガルニク効果

  1. 観光に関して、仲谷教授らによる『くやしさを利用した観光地リピータ誘導の試み』『観光客の周囲の地図をあえて消す観光ナビの試み』などをご参考に。また最近発表された観光関連の論文では、『A Study of Psychological Approach to Design Sightseeing Support Mobile Application』がありました。

    伊藤教授の論文は『文末詞「の」が記憶に与える影響:相互行為の観点から』をご参照ください。

    ビジネスへの応用については、『ツァイガルニク効果』などをご参考に。

    教育方面では、たとえば『動機づけを高めて、時間効率をあげる』『1主題2時間連続で取り組む「道徳の時間」の指導に関する研究』『記憶におけるツァイガルニック効果の基礎的研究(学習A)』などの研究等があります。

  2. いつも新鮮な話を、届けていただき、感謝します。80歳になりましが、先生のメールを楽しみにしています。常に新しい話で、少し先が見える気がします。感謝。

  3. ありがとうございます。コメントいただき、とても嬉しく思っています!

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