小橋 昭彦 2008年12月24日

 鳥の鳴き声が、周囲の環境によって違ってくるとは発見だった。ライデン大学のスラベッコーン博士が発表した論文によると、シジュウカラは、交通騒音のある都市部では、近隣の森に棲む同じ種と比べて、短く速く高い音程で鳴いていたという。似たような報告をベルリンのブラム博士もしていて、都市騒音の激しいところでは、小鳥たちが通常より大きい声で鳴いたり、何度も繰り返し鳴いたりするという。
 鳥にとって鳴き声は、なわばりを主張するとともに異性をひきつける大切な手段だ。自分の声が周囲の音にまぎれては、生き残れない。深い森の中では低くゆったりとした音が、騒々しい中では速く繰り返す音がよく通る。だから森のミミズクはホーッと鳴き、ヒバリはピーチクパーチク鳴くのだ。
 そう考えてゆけば、ただ環境に合わせるだけではなく、他の種類の鳥とかぶらないように鳴くことも必要だ。スズメやウグイス、トンビやカケス。高く、低く、長く、短く。鳥たちは、なんてうまい具合に鳴き分けていることだろう。それぞれの楽器が技術を磨き、特徴を究め、何千年、何万年かけてつちかってきたシンフォニーが、空間に満ちている。
 そこに今、想定外の楽器が割って入ってきている。道路や工場などなどから発せられる人工音がそれだ。歌を環境に適応させられる鳥はいい。しかし、柔軟さに欠ける演奏家は、これらの楽器に自らの歌をかき消され、退場するほかない。この百年で、自然のシンフォニーの多くは変質した。
 この小文を読み終えたら、しばし目を閉じ、耳を澄ませてほしい。聴こえる音風景から、人工の楽器をひとつ、ひとつはずしていく。舞台には、何人の演奏家が残るだろう。機械音も自動車音も、航空機の音さえない、自然のフルオーケストラが1日中響いている場所が、この日本に、いや、この地上にどれだけ残っているだろう。

3 thoughts on “自然のオーケストラ

  1. まずはHans Slabbekoornらによる「Birdsong and anthropogenic noise: implications and applications for conservation」及び「Cities Change the Songs of Birds」を。また、「Hear My Song」(Henrik Brumm)もどうぞ。生体音響学の一分野なのでしょうか、海外では研究の蓄積もあるようですが、日本はどうなのでしょう。
    ちなみに、米国立公園でも「A Sound Resolution」にあるように、調査が行われているようです。で、実際に自然のオーケストラを聴くなら、その「Soundscape」のページとか、Bernie Krauseによる「Wild Sanctuary」とか。

  2. はじめまして。
    私は音楽を聴くのが大好きで、それが高じて無謀にも大人になってからサックスを習い始めて8年くらい続けています。
    今回の記事はとても共感できるところがありました。音のこととはピントがずれているかもしれませんが投稿させていただきました。
    最近のヒット曲が電子加工した音がやたらと多くて大量生産しているように感じるようになりました。セールスなどの記録は残っているけど、記憶に残っているのだろうか?、と、今そんな葛藤が自分の中でめぐっています。
    自分自身サックスを演奏したりライブを聴きに行きますが、CDで聴く音より人間の生の演奏の音のほうが感動すると思ったり、名曲は世代を超えて表現を変えながらも受け継がれていく、、、そんなことも考えるようにもなりました。クラシックやジャズ、クリスマスソングもそうなのかなと思います。
    もちろん、アンテナを張って最先端や流行の音楽を聴くことも大事ですが、聴いた曲に対して自分の中でこの人はこんな気持ちで曲を作ったんだな、とか色々考えてみると、自分にとって本当に好きな音楽が分かったり、心のビタミンになったり、音楽がより楽しく聴けるのかもしれないな、と自分自身に言い聞かせています。

  3. かれこれ20年前になります。カリフォルニア大の心理学者が世界の主要都市を訪ねてまち行く人の人の歩測をチェックするため、東京に滞在していました。確か、歩測では東京が一番、次いで香港、そしてニューヨークということでした。又、東京は駅の時計が世界一、一致しており、エスカレーターの脇を駆け上る人が多いといっておられました。都会の鳥は大声で早口ということですが、人も2,30年前のTVと現在では比べ物にならないほど早口になっていないでしょうか。CMともなれば一段と音声がアップします。多分、私を含めて視聴者の皆さんも20年前の映像を観ていたら居眠りが出てしまうのではないでしょうか。つまり、ともに存在する生物にとって、共通してストレスレベルが高くなっているのではないでしょうか。とにかく、町に出ると騒音の波(BGMを含む)です。数年前イ旅した冬のストックホルムは車の音を除いてBGMはなく、夜のしじまは暗く森閑としていて深い眠りにつくことができました。鳥たちは私たちの1歩先を行き、環境の変化について身をもってフィードバックしてくれているのではないかと思います。鳥を観てわが身を知る思いです。

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