いま、地震がおこったと想像してみてほしい。3秒後、なにが起こるだろうか。何か落ちてくるとか、倒れるとか。では10秒後はどうだろう。30秒後は、1分後は、30分後は。
こうして、災害後のシミュレーションを、時間を追ってしてみてほしい。スタートとなる時間にも、就寝中や出勤中、食事中などバリエーションをつけて。
さて、ここで質問。いまあなたがたてたシナリオに、自分自身が腕や足をいため、弱者の立場になることは含まれていただろうか、さらには死亡する可能性は。
たいていの場合、こういうシナリオを考えるとき、ひとは「自分だけは大丈夫」と考える。社会心理学でいう、「正常化の偏見」だ。災害対策を考えるとき、シミュレーションの段階でこの正常化の偏見をのぞくことが、危機対応力の向上に欠かせない。
とはいえ、たとえおおきな災害があったのちでも、長期的に見れば対策を立てる人の割合はあまり変わらない。人間って、そういうものらしい。ポジティブというのか、能天気というのか知らないけれど。
団地の直下の家からの類焼で焼け出されたのが1月のこと。目の前にある携帯電話や財布さえ持ち出せず、自分があまり多くできると考えず、せいぜい「いち、に、さん」くらいで練習しなくちゃ、と痛感した。それなのにはや、非常時の備えは、日常の中で忘れつつある。
いっしょに逃げ出した隣の女の子も、「ケータイ持ってきたらよかった」と炎と煙をあげる団地を見上げながらつぶやいていた。そう、すぐ身近なものさえ持ち出せない。自分だけは、のもろさ。彼女の声がいまも耳に残る。
災害対策については、「日本自然災害学会」「社会情報研究所」「日本社会情報学会」「雨量に基づく土砂災害危険予測システムの研究開発報告書」「片田研究室」「目黒研究室」などを。また災害時のシミュレーションについて、より詳しくは3月21日付朝日新聞を。