換喩といえばいいだろうか。「光るウサギ」「火星人のおなら」「叫ぶ冷蔵庫」いずれも、本書の中に収められた一篇だ。
それぞれの話は、まじめな学術論文に基づいている。でも、「イグ・ノーベル賞」にとりあげられる研究のように、まじめな研究はときにとてつもなくユーモラス。
そんな研究をとりあげて、紹介しているのが本書だ。「サイエンスな雑学」というときに、もっともふさわしい本の一冊じゃないかな。「ざつがく・どっと・こむ」にぴったりの本かもしれないね。
副題のひとつにある、火星人のおならというのは、メタンガスの検出器を積んだ火星探査機の話だ。メタンガスを検出できるから、火星人がおならしたら検出することができる。で、著者はこんなツッコミを入れる。
火星人がおならをしない生物だったらどうするんだ?
答えはこうだ。
そんな生物とは知り合いたくない。
ちょっとおおげさに翻案したが、主意は逸らしていない。
消化という代謝はぼくたちが生きていることのあかしであり、だからおならも出る。そんな代謝のしくみからして違う生命から何を学べるのか、と。
これでおよそ本書のトーンが提示できた気がする。フランス風のエスプリとウィットをまぜて、科学研究を紹介する。
日本の研究者も登場する。先ほどのイグ・ノーベル賞を受賞した研究だ。ハトにモネとピカソの絵を見分けさせた研究。タイトルは「美術鑑定士ハト」。
そうだね、だからこの本の副題は、「美術鑑定士ハト、ニワトリの歯、しゃっくりのなぞ」でも良かったわけだ。
あるいは「左利きは短命、ブラジャーの科学、串刺し事件」でも良かった。
本書には全部で54のコラムが収められている。その中でなぜ冒頭の3つをとりあげたのだろう。
たぶんこれら3つが、もっとも「ありえない」からだ。
ウサギが光ったり、火星人のおならをかいだり、冷蔵庫が叫んだりすることなんてありえない。
そのありえないことと、科学がつながっている不思議。
本来科学ってそういうものだったかもしれない。「ありえない」ことを「ありえる」ところに引き寄せるのが科学。月へ出かけたり、時間が伸びたり縮んだり、ジャガイモとトマトが結婚したり。
そもそも科学ってそういうものなんだ。
「科学研究×ありえない」
本書では、この「×」の部分を、ネタとして取り上げ、遊んでいる。そう気づいて、ぼくはようやく落ち着いた。
実のところ、「ざつがく・どっと・こむ」はこの書籍と同じことをやっているんじゃないかという気がして、どうも落ち着かなかったのだ。
でも、なんだかわかった。
「ざつがく・どっと・こむ」は、ネタを遊ぶことには興味ないんだ。やりたいのは、「×」の部分の本質を掘り起こすこと。
だから。
ちょっと学術系の雑学ネタから出発して、視野を広げたいときには、「ざつがく・どっと・こむ」を覗いいただければうれしい。
そうではなく、それをとことん遊びたい方、本書をお薦めする。
「ざつがく・どっと・こむ」の方向性も好きですが
紹介されているこの本の方向性も同じくらい好きなので
書店で見つけたので買ってみました。
書評をアテに本を買う、という行動は恥ずかしながら初めてだったのですが(今まではロクに本を読まなかった)、
この本はなかなか面白い(まだ途中ですが)と感じたので
ここの書評は今後もちょくちょくアテにさせていただこうと思います。
ありがとうございます!
コーナータイトルの都合上、副題のついている本だけにはなりますが、読書の幅を広げる参考になれば嬉しく思います。
いわゆる「雑学」がそのままタイトルになっている種類の本はまず紹介することはないと思いますが、科学的な知見に基づく幅広い知識といった方面においては、たぶんお役に立てることと思います。どうぞよろしくお願いいたします。