小橋 昭彦 2001年4月6日

 フィンセント・ファン・ゴッホの作品に『夜の白い家』という絵がある。最後の数カ月を過ごしたパリ郊外のオーベール・シュル・オワーズの風景を描いたもの。赤い屋根の白い家、その右上にひときわ明るく輝く黄色い星。
 この絵の描かれたのが1890年の6月16日、午後7時から8時の間だったことを、米サウスウエスト・テキサス州立大のドナルド・オルソン教授らのグループが明らかにした(朝日3月12日)。人口約5000人というこの町の家々を一軒ずつ訪ねて「白い家」を特定、当時の夜空から黄色い星が金星であることを割り出し、当日が晴れていたことも確かめたもの。
 精神を病んでいたゴッホも、オーベールに移って安定をとりもどし、1日1点という旺盛な創作意欲をみせていたころ。拳銃で自分の腹を撃ち人生を終える、1カ月あまり前の絵ということになる。
『ひまわり』など、量感あふれる色彩で知られる彼の絵。ぼくにとって印象的なのは、『星月夜』や『夜のカフェテラス』など、ときに同心円を何重にも伴うような、ぎらぎら輝く星だ。
 生涯、絵はまったくといっていいほど売れず、情熱や自信をなくしミレーや浮世絵を模写したりもしていた彼。金星の輝きに、彼がなにを見ようとしたのかは知らない。100年あまり前の6月の晴れた日、彼は確かにオーベールにいて、絵筆をとっていた。37歳。ふと気づけば、ぼくもその年齢までほどないのである。

2 thoughts on “夜の白い家

  1. 今日の没ネタ。舞妓が修行を積み一人前になったのが芸妓(日経3月11日)。

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