驚いた。今回のコラムを書くにあたってバックナンバーを検索してみると、笑いに関するタイトルだけで1998年1月以来5回も書いている。しかもそのうち「作り笑い」と「笑い」というタイトルが、それぞれ2回。内容は違うけれど、ふだん同じタイトルをつけないように気をつけているつもりだっただけに意外。深層心理で、それほど笑いを求めていたのだろうか。
史上描かれた、もっとも有名な「ほほえみ」といえば、モナ・リザのそれだろう。中世キリスト教社会が微笑を聖母子像の表情に限っていた時代のあと、ルネサンスの人文主義を経て描かれたダ・ビンチの傑作。
19世紀の画家ルノワールは、天真爛漫なほほえみを描いたとして知られる。ところが、彼が活躍した19世紀、微笑を描く画家はほかにいなかったとオルセー美術館のカロリーヌ・マチュ主任学芸員は指摘する(日経1月28日)。ブルジョワ社会だったゆえ、肖像画には威厳が要求されていたというのだ。それでもあえてほほえみを描いたルノワール。
息子が2歳を過ぎたころ、難しい顔をしていた父親の口の端をひっぱりあげて、「わらってよー」とせがむことがあった。ルノワールは言っている。「人生には不愉快なことがたくさんある。だからこれ以上、不愉快なものをつくる必要なんかないんだ」。
そうして、ぼくはまた、笑みを主題にコラムを書いている。
今日の没ネタ。米離れ、副食品多食型に移行する日本人の食生活カーブ(日経1月27日)。日本への茶の伝来は古代・中世・近世の3回(日経1月20日)。