ありさんとありさんがごっつんこしたのは、お買い物に出かけたときだったか。えさ場までアリが行列している光景はしばしば見かける。えさ場を見つけたアリがフェロモンで巣までしるしをつけたのを仲間がたどる。障害物が少なく道幅が広い場合はいいけれど、狭い場合はごっつんこだろうか。フランスの科学者が並行するルートを作って観察したところ、道幅が広く混雑していないときは1本だけを用いていたけれど、道幅が狭く混雑するときは、2本を均等に用いたという。アリだって、混雑にあわせてバイパスを通るわけだ。
ロンドンで行われるノッティングヒル・カーニバルのパレードの道筋を決めるにあたっての、こんな話がある。見物客の流れをもっともスムーズにするため、循環状にパレードしていたのをL字形に近くなるように工夫した。この案のもとになったのがコンピュータ・シミュレーションで、案を出した学者らは、群集の動きは昆虫がえさ場に引き寄せられる行動と同類と述べている。
群れとしてみればヒトもアリもないのだ。群れは、個々の意思と関係なく、全体として流体の動きと見なすことができる。高速道路での車の動きもそうで、工事や車線の減少もないのに渋滞するいわゆる自然渋滞も、ニュートン力学と関係ないにも関わらず、パイプを流れる粉末の動きに似る。
交通渋滞による日本全国での年間損失は、時間にして38億時間、費用にして12兆円。ITSを研究するグループによると、10台から20台に1台が5秒分の車間距離をとっていれば、車の減速が車列全体に及ぶことを避けて滑らかさを保てるとか。ただ、5秒といえば時速60キロの場合で83メートルあまり。少し広めで、後続車の理解を得づらい。こうして結局、今日もまた日本各地で渋滞、そして渋滞。巻き込まれたときは、ひとまず「おつかいありさん」を口ずさみ、自分もまた川の流れと同じく自然の摂理のなかにいると考え、気持ちを落ち着けるほかない。
アリによる道の選択実験は「Optimal traffic organization in ants under crowded conditions(Nature 428(04 March 2004))」です。ノッティングヒルのパレードについては「ヒトもアリも群れれば同じ」に解説があります。流体としての交通流については、日本流体力学会の機関誌「ながれ 22巻 第2号」の特集が詳しいです。また、渋滞の解消法は「産業技術総合研究所 ITS研究グループ」によるものです。渋滞関連情報は「国土交通省 道路局」で。ことに「渋滞データの概要」をコラムではとりあげました。