日本でもイグ・ノーベル賞の名前が知られるようになった。パロディ版のノーベル賞と説明されたりするし、確かにそうした一面もあるのだが、純粋にお笑いというわけではない。ためしに、次に掲げる二種の研究業績リストを比べてほしい。
ひとつめ。「スキップをしなくなるわけ」「体臭によるコミュニケーション」「クリップはなぜ曲がる?」「泥を食べるのは健康のため」「旗がはためくわけ」。二番目。「歓喜についての学術的分析」「相続税率の低下に延命効果があることの実証」「ハトにピカソとモネの作品の識別を訓練」「人間の腸内から発見された異物一覧」「コーンフレークがふにゃふにゃになるプロセスの物理学的考察」。さて、見分けがつくだろうか。
前者は、権威ある科学誌「ネイチャー」の人気コラムをまとめた『知の創造』という書籍から見出しを抜粋したもの、後者はイグ・ノーベル賞を受賞した研究を紹介する書籍から拾ったものだ。両者から受ける印象に大きな差はない。「大真面目で奇妙キテレツ」というのがイグ・ノーベル賞を紹介する書籍のコピーだが、科学とはまさにキテレツさが醍醐味なのだ。相対性理論のいう時空の歪みや、量子論のいう粒子を通り抜けるトンネル効果、あるいは数学でいう無限にいろんな無限があるなんて、常識からすればまさにキテレツ。
ノーベル賞では遅れをとっているとされる日本人だけれど、イグ・ノーベル賞においては受賞大国のひとつ。足の匂いの原因物質を特定し、とりわけ「自分の足が臭いと思っている人の足は臭く、思っていない人の足は臭わない」という秀逸な結論を出したとして受賞した化粧品メーカーの研究者を第一号として、ガムの味と脳波の関連性の研究、浮気発見スプレーの開発、そしてたまごっちやバウリンガルに至るまで。フシギでキテレツな国としての日本はまだまだ元気だし、可能性もあるよねって、そんなことを感じている。
まずは楽しく読める書籍『イグ・ノーベル賞』をどうぞ。英語ですが、サイトでは「The Ig Nobel Home Page」に歴代受賞リストもあります。それから、まじめな方では、『知の創造(1)』『知の創造(2)』『知の創造(3)』いずれもお薦めです。日本人のイグ・ノーベル賞関連受賞者については、コラム内でも触れた『ヒト型脳とハト型脳』の「渡辺茂」教授、ガム研究の「Chewing-gum flavor affects measures of global complexity of multichannel EEG.」、「浮気チェックスプレー」、ほかに「Chonosuke Okamura」など。「イグノーベル賞」に日本人受賞者一覧があります。なお、科学のとらえかたについてはかつてのコラム「科学のこころ [2001.10.29]」もご参考に。そのときの参考書『知のミネラルウォーター』もおもしろいです。