世界のミイラ学者が集って3年に1度開催されている「ミイラ会議」。第1回はカナリア諸島で行われ、以降コロンビア、チリ、グリーンランドと開催を重ね、2004年の第5回はイタリアで予定されている。いずれの開催地もミイラに関係の深い土地で、ミイラがエジプトだけのものでないことを示している。乾燥や泥地が偶然ミイラを残すことも多い。
世界ではいったい何千体、いや何万体のミイラがあることだろう。それらをなぜ、人は作ってきたのか。エジプトの王たちは再生を夢見ていた。中世においては聖人の遺骸が信仰のしるしとなった。南米のチンチョーロ人たちは母親の悲しみを閉じるように、何体もの子どものミイラを残した。現代ではレーニンなど権力者の遺骸が保存され、一方で冷凍保存がビジネスになる。
多くの場合、なんらかの思いが込められたであろうミイラが、一時はすりつぶされ、妙薬として、あるいは絵具として使われていたことには驚かされる。日本語のミイラだって、ポルトガル語の没薬ミルラが語源。エジプトを訪れたナポレオンは、遊び好きの妻のためにミイラの頭を持ち帰ったともいう。ミイラがある種の資源や工芸品的にとらえられていた時代があったのだ。
ネムリユスリカという「ミイラ」昆虫がいる。環境が乾燥状態になるとトレハロースを爆発的に合成して体内を水あめ漬のようにして、ミイラ状態になる。そのまま10年以上経った後でも、水を与えれば復活する。この昆虫と同じ情報伝達系を人間も持っているというから、研究が進めば、乾燥保存して水で戻す人間ができないとも限らない。
そのとき人は、ミイラになることを夢見るだろうか。そう思い、ふと、村上春樹氏の『海辺のカフカ』を思い出す。物語の終盤、ひとりの女性が主人公の少年に生きるように願い、こう言い添える。「あなたに私のことを覚えていてほしいの」と。そう、ぼくたちが残すべきは、ただこの肉体ではない。
まずは書籍として『ミイラはなぜ魅力的か』をおすすめ。ミイラ会議、次回トリノは「WORLD CONGRESS ON MUMMY STUDIES」でどうぞ。これまで様子は、「MARI at the Third World Congress on Mummy Studies in Arica Chile」「A Brief report on the IV World Congress on Mummy Studies」といったレポートで一端がうかがえます。また、ネムリユスリカについては「水で戻すと生き返る動物組織」「高等生物(ネムリユスリカ)の永久的休眠の誘導・維持・覚醒機構の解明とその利用」で詳しい情報が得られます。それから、村上春樹氏の『海辺のカフカ(上)』『海辺のカフカ(下)』から文中、引用しました。
小橋様いつも楽しく読ませていただいております。
ミイラといえばエジプトを思い出してしまう私なのですが、エジプトのミイラが現在数少ないのは、やはり薬などに使用していたせいでしょう。
なんかぞっとするような話です。
食べるのはともかくとして、なんだかそのうち人間フリーズドライなんていうのも本当にできたりして・・・ (お湯をかけて、3分間待つのだぞ0)
そういえば、乾季をコチコチの乾燥状態ですごして、雨季になったら水分で復活するという鯰の話を聞いたことがありますが、昆虫にもいるんですね。
(適応能力のすごさを感じます)
ミイラになりたいとは思いませんが、自分そっくりのアンドロイドなんか作ってみたいと思うのは私だけでしょうか・・・?
朝晩涼しくなってきましたが、体調を崩されることのないよう、これからも執筆活動にがんばってください。
ミイラになりたかった人もいるでしょうが、ミイラになるつもりはなかったのに外的環境がたまたま適していてミイラになってしまった人は・・・どう思ってるんでしょうねぇ、何も考えてはいないと思いますが・・・。昔私も大英博物館展でしたっけ、ミイラを見に行ったことだけは告白します。
さてさて、ミイラというのは昔は神聖なものであり、自らミイラになるために絶食してゆるやかに死ぬという方法もあるそうな。これからフリーズドライミイラが誕生したらどうなるんだろう? 時間も、宗教も、悲しみも、商売になってしまうんだろうか?
・・・宇宙がロマンと希望の世界からビジネスの世界に変わってきているこの21世紀。私たちはロマンをどこに求めればいいのでしょうか。
日本の環境で即身仏になるのはなかなか難しいようです。土中の湿度は場合によっては骨まで溶かしてしまうようです。
即身仏は誓願にあります。誓願を達成するための手段で、ミイラになることに本来は大きな意味は無いはずですが、ミイラになったほうが誓願の永遠性が民衆に感じられるので、ミイラになる事が誓願が叶うような認識になるのでしょう。
「魂魄ここに留まりて」は死んで幽霊になるためのセリフですが、霊魂が留まっているように感じられるのでしょう。
藤島と申します。初めてメールさせていただきます。
ミイラに巻いてある麻布を昔、製紙会社が買って売ったという話を聞いたのですが、今でもどこかにその紙が残っていたりするのでしょうか?
詳しいことをもしご存知であったり、詳しい方をご存知でしたら、いくつか質問をさせていただきたいのですが、教えていただけませんでしょうか?
宜しくお願い致します。