小橋 昭彦 2003年3月17日

 記憶が書き換えられるものとすれば、その積み重ねを記述した歴史ってなんだろう。おそらくそれは、地層のように積み重なっているものではなく、記述する人の観点から見た記述にすぎない。そう思いつつ小学館の『スーパーニッポニカ』で「歴史学」をひくと、「歴史の事実は現在にある」という表現に出会い、ひざを打つ。今を生きる歴史家があってこそ成り立つものだから。
 そういう視点からすれば、歴史を語ろうという観点のない文明には「歴史」はない。たとえば、インド文明。古代インド文明には史書の類がほとんど無い。インドでは生命を輪廻転生と見ており、この世の一瞬の出来事に価値を置かなかったから、とも言う。歴史学の岡田英弘教授による『歴史とはなにか』にも同様の指摘があり、またイスラム文明にも本来歴史はない、と指摘している。イスラムでは一瞬一瞬が神の創造と考えるからだ。それがたまたま歴史を持ったのは、地中海文明と対抗する必要上だったと。
 その地中海文明においては、ヘロドトスの『ヒストリアイ』によって歴史が「発明」された。彼の歴史観というのは、二つの勢力が争って変化するというもので、アジアとヨーロッパの対立を軸にしている。岡田教授は、中国文明が司馬遷の『史記』によって歴史を持ったのは、皇帝の正統性を主張するためだったとも指摘している。
 アメリカに歴史が無いとは、しばしば聞く言葉だ。このとき「歴史」というのを、単に時間の積み重ねではなく観点としてみると、そのことが新しい意味で実感される。アメリカにとって重要なのは現状をどう判断し将来どうするかだけなのだと。いくら他国が歴史を言っても、アメリカにとっては単に古いという意味にしかならず、これじゃあ話はかみあわないよな、なんてことも思う。だから今、という話には踏み込まないでおくけれども。

3 thoughts on “歴史という観点

  1. スカイダイビングの高度記録、3.1km(ポピュラーサイエンス3月号)。相対性理論にも見直し機運(日経サイエンス2月号)。お米しか炊けないのに価値あるかというのが米国での炊飯器への評価(日経サイエンス2月号)。万里の長城、農民が知らなくてとっていく例が多く半分以上消失(日経12月22日)。奈良公園シカ、芝刈りや観光PR係として日当計算すれば1万円(朝日6月30日)。JFKは在任中ほとんど薬漬け(朝日11月19日)。オゾンホール最速の消滅(朝日11月14日)。奇跡の神父として知られたピオ神父を聖人と認定(朝日6月17日)。タトゥはキャプテン・クックがタヒチから紹介(日経2月6日)。ポケットが目に見える形でファッションに現れるのは17世紀末(日経8月9日)。当初水着が縞柄だったのは肌につけるのは白がいいとされていたが透けるのが嫌で濃い色も組み合わせたため(日経8月16日)。植物に日焼けを防ぐ遺伝子(朝日8月9日)。スーツ・システムの起源はチャールズ二世(日経9月6日)。人類最高温度、ビックバン級の6兆度達成(朝日10月2日)。格闘コオロギ1200年の歴史(日経10月23日)。ホヤで精子を誘う物質発見(朝日11月12日)。大森古墳、国内最古級の前方後方墳(朝日11月22日)。「国」を記した最古の木簡665年(朝日11月22日)。富士山は7、8の2ヶ月で25万人が訪問、200リットルの風呂桶2250杯分のし尿が排出(朝日11月23日)。日本人、不眠は寝酒に頼る(日経1月23日)。マイワシ、50年周期で増減(日経1月27日)。英政府の対イラク機密文書、院生論文からの引用も(朝日2月8日)。日本最古のサル、新種(日経1月23日)。ガーターの考案者はエッフェル(日経2月28日)。肌を守る関門は表面ではなく角質層のすぐ奥(朝日3月2日)。自動改札機、並行処理で処理可能人数を増やす。

  2. 歴史を知るときに、今まではあまり気にもせずに来たのですが、その素となる資料に関して、歴史上の勝者の資料が主に残っているために、敗者を含めた歴史が語りたくても語ることが出来ない。と言う事実を知りました。それから名もなき庶民の歴史も定かではありません。歴史は勝者の歴史であると言うことでしょうか。
    足利尊氏などは室町幕府を開いたから資料が残っているが、もし破れていれば鎌倉幕府の武将くらいのことしか残らなかったかも知れないし、未だに悪者扱いである。これは明治政府の策謀であるが、それによる教育がなされて、私なども悪者ではないと思いながら、どこかで悪者的に見ている自分がある。
    長くなりましたのでこの辺で。
    要するに歴史は勝者のものであり、それしか資料がないから仕方がない。よって歴史を見るときは、その裏に敗者がいることを考えながら見ていくことが必要ではということです。

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